第3話 集合 4人のゲームマスター
そこでルイカは妙なことに気付いた。
当然のようにポケットに入っていたこの、妙にごついスマホ。
明らかに自分の私物ではない。入っているアプリも見覚えのないものばかりだ。
「あー、驚くよな。いきなりポケットに入ってんだからさ」
スマホ片手に困惑していると、着ぐるみと話し込んでいた中年が声を掛けてくる。
「とりあえず、自己紹介な。オレは
「歳は幾つなんですかぁ?」
「んべ!? ――別にいいだろ。何歳でも」
「噛んだww。んじゃ、当てます。ズバリ35歳!」
「ちげーよ。もうちょい、上だ」
着ぐるみはヒェッと声をあげて「オーノー!」のポーズをとる。
「多めに見積もって35って言ったのに、まさかのアラフォー! ……アラフォーさんて呼べばいいです?」
「おじさんでいいっつーの! ああもう、世間のアラフォーフリーターがどんだけ歳を気にしてると思ってんだよ……」
「就職しないんです?」
「そういうお前はどうなんだよ。歳は? 職業は?」
「歳は不明。職業は
「さっき違うって言ったじゃん!!」
ツッコミを受けると、着ぐるみは押し黙ってわかりにくいジェスチャーを繰り出した。
――ワタシハ、ニドト、シャベリマセン――
「なるほど、とにかく言いたくない、と」
「訊かないでほしい、の間違いでスね」
――喋んのかよ。ルイカも思わず心の中でツッコミを入れた。
だが、すぐにそんな場合ではないと頭を振る。――こいつらに付き合ってる場合じゃないんだ!
「解った。じゃあこれだけ答えろ。性別は女、か?」
「いや変態か! つーかそんなものはありません!
「そこまで秘密主義を貫かれるんなら仕方ない。――こっちで確認するまでだ」
「ファ!? な、なにをする気でち!? 暴力反対!」
「安心しろ、――着ぐるみの上からまさぐるだけだ」
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁッ!! へんたぁぁぁい!!」
笑顔の中年が襲いかかろうとすると、着ぐるみは逃げ出した。
「――――いつまでやってんだよ!?」
さすがに耐え切れず、ルイカは声を上げていた。
問題を起こしたくはなかったが、これ以上こいつらの能天気なやり取りに付き合うのはうんざりだった。
「おぉ、わるいな。いや会話に入ってこねぇから、場を和まそうと思ったんだが」
「いや、目がホンキだったよ! オトメを狙う暴漢の眼をしてた!」
「という訳で、一応は自称オトメらしい。これから一緒に仕事するわけだし、気ぃ使ってやってくれ」
「――――いや、その、コッチもでかい声出してスイマセン」
ルイカも自制して頭を下げる。
怒鳴り散らしてどうなるものでもない。
大事なのは自分の面子でも待遇でもない。一刻も早く、ハルを止めるために、帰ることだ。
そのためにも、とにかく理解できるところから理解していかないと話にならない。
なによりも、コイツ等は自分よりも幾分落ち着いている。
テンションの差からも明らかだ。少なくとも自分よりは事情に明るいはずだ。
まずは情報を引き出す。そこからだ。
「あんた――いや、その、アナタは何か知ってるんですか? 俺はすぐにでも帰らないといけないんですけど!?」
ルイカは意を決して中年に話しかけた。
「ハハ、育ちが良いなあんた。敬語はいらねぇよ。慣れてるし、ガラでもねぇしな」
にしても、と中年は笑顔を浮かべた後で首をひねった。
「けど、帰るって何言ってんだ? これから仕事なんだぞ? なんで帰るんだ?」
「仕事?」
「そちらさん、なんだが事情が分かってないみたいでスよぉ」
着ぐるみの言葉に、中年は首をひねった。
「あん? そうなのか? けど、俺らから聞いてもなぁ、そう言うのは。又聞きになっちまよな?」
「なぁ、仕事ってなんなんだ!?」
重ねて問うたその時、中年と着ぐるみの視線が動いた。
ルイカもつられてそちらを振り返る。
「仕事は仕事さ。結構な大仕事だけどね。――やぁ、そろってるね皆。――では始めようか」
そこへは4人目――最後の「ゲームマスター」を連れた女が姿を現していた。
異形の美女だった。
その肌は目も冷めるような青色で、明らかに人間とは思われなかった。
何かをペイントしているのではない、とすぐに理解できた。
まるで何かの神聖ささえ伴って、輝くような色合いをしている。陶磁器に描かれた群青を想わせるような。
その女に手を引かれて来るのは小学生くらいの少女だった。
しかし、ルイカには何が何やら、わからない。
「そろった? そろったって何が?」
「『ゲームマスター』だよ。4人揃った。さぁ、後はゲームを始めるだけだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます