第14話 それぞれの領域

「それで、具体的にはどうするんだ?」


 青神――「ゲームメイカー」が去ってから、4人のゲームマスターたちは改めて方針を詰めるべく、頭を突き合わせていた。


「とりあえず、俺とkithi熊くんで、ルールに対しての質問書を書きまくる。その回答の中に矛盾みたいなものがあったらリストアップしてくれ」


「矛盾でスか?」


「そうだ。その矛盾やバグみたいな部分を探して突いて、本来 想定されていないやり方でプレイヤーを救出する」


「ファミコンゲームのバグ技みたいなもんでスかね」


「そういうこった。だから、まずはルールの不備・バグ・矛盾そういうものを洗っていくぞ」


「俺は良いのか?」


 ルイカは問う。


「悪いがお前とマツリカにはゲームの進行を見ててほしい。オレたちはこっちの作業にかかりきりになっちまうはずだからな」

 

 そうか、本来は4人でゲームの進行を見てなきゃならねぇんだもんな。


「でも僕ら、それぞれできることは違うんでスよね。それはドーするんでス」


「出来ること?」


「ああ。オレたち4人のゲームマスターは、それぞれに司る領域が違うんだ」


 ルイカが首をひねると、着ぐるみが補足する。


「簡単に言うと、権限がが微妙に違うんでスよ。たとえば――僕は「アイテムマスター」マップ上にどんなアイテムを配置するかを決められるわけでス」


 権限、だと!?


「そうだな。で、オレは「ゾーンマスター」さっきやったみたいに、バトルフィールドの『仕掛け』を配置したり、サイドスペースの管理を行う」


 となると……、とルイカはマツリカを見る。


「え……と、」


「マツリカちゃんは、「プレイヤーマスター」だね。各種プレイヤーの状態や、それぞれが持つ『特殊シム』の詳細なんかが分かるみたい」


 着ぐるみが続けて補足する。だが、ルイカは鼻白む。そのぐらい自分で言えよ。


 しかし、聞くところによると、それが本当ならこの3人で人・所・物をそれぞれに司るということか。


 ならルイカの権限とは何に及ぶのだろうか?


「で、キミは――「タイムマスター」だね」


「タイム? 時間のマスターってことか?」


「詳しくは――アプリに説明が入ってるはずでスけど……」


「主な仕事は「エネミー」を解放するタイミングを決めることだ」


 中年が付け加える。


「お前とマツリカに進行をしてもらいたいのはそれが理由なんだ。俺とクマの仕事は初期設定のままでも、まぁ支障をきたすってことは少ないんだが、お前たちの仕事はかなり流動的だし、目を離せないと思う」


 しかしルイカは再び首を捻る。


「『エネミー』ってなんだ!?」


「君の主なお仕事だね。要するにこのゲームってレベル上げの要素があるんですよ」


 着ぐるみが付け加える。


「ようするに、プレイヤー同士の戦闘以外にも、ザコ敵がうようよしてるってことでス」


 ザコ的――それが「エネミー」っていうヤツか?


 ルイカは自分のスマホを操作して「エネミー」と読み取れるものをタップする。


 すると、なにやら妙なアイコンのリストが表示された。

 

 どうやらこれを操作することでこのザコ敵――エネミーをフィールド上に解放できるらしい。


 しかし、ルイカは憤慨する。


「ふざけんな! なんでハルをさらに危険な目に合わせなきゃならねぇんだよ!? こんなもん解放して溜まるか!」


「いやー、それはちょっと……」


 すると、言いにくそうに、着ぐるみが告げる。


「そうせざるを得ない理由があるって事だな……ちょうどいい。見てみろ」


 モニターを見ていた中年が声を上げる。


 見れば、ひとりのプレイヤーが、明らかに人とは違う、妙に人工的な作りのものを格闘している。


 なんだよ!? 俺は何も解放してないぞ!?


「あくまで、エネミー解放の制限時間を操作できるってだけなんだろうな。放っておいても最終的にはみんな解放されるわけだ」


 ――確かに。見ればリストに連なっている各種「エネミー」には何事かのカウントダウンが刻まれている。


 これがゼロになると自動で解放されちまうってことか!


 そのプレイヤーは見事にエネミーを撃破した。見ればあちこちでプレイヤーとエネミーとの戦いは始まっているようだ。


「他のプレイヤーと戦う前に戦い方を練習させるため、それと、エネミーを撃破すればするほど経験値がたまってシムが強化されるみたいだな」


「それを監視できるのが「プレイヤーマスター」なわけでスね」


 着ぐるみはマツリカを見る。マツリカは緊張したような面持ちで頷いた。


「レベル……やりこみ要素ってやつか……」


 クソ! こんな殺し合いにやりこみもくそもあるかよ!


「だから、目を離せない仕事なんだ。生き残らせたいプレイヤーにエネミーをけしかけんのは嫌だろうが、ちゃんと経験値を取っておかないと他のプレイヤーとの差が開くことになっちまう」


「さっきははね返せたカミナリのスマホも、レベル如何によっては貫かれちゃうわけっスね」


「……っ!」

 

 ルイカは苦悶のあまりに身を折った。


 それじゃあ、俺はあえてハルにこんなモノをけしかけなきゃいけないってことなのか?


「それに、プレイヤー同士の戦闘を止めさせるために、エネミーを配置するって使い方もできる。その辺はさじ加減だ」


 なんとか工夫してやってみてくれ。と中年は続ける。


「……ああ、説明させて悪い。後はなんとかしてみる。――あんたは、『方法』を見つけてくれ」


 中年は頷いた。


 とにかく――プレイヤー同士の戦闘が起らないよう、弱いエネミーをバラバラを出現させる。


 今はまだ――時間を稼がなきゃならない。


 方法が見つかるまでは――


 ルイカは、祈るような気持ちでスマホを操作する。


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