第11話 ルイカの理由
「はぁ!? ――にんしん? 妊娠て、キミの!? え? キミら高校生だよね!? だって制服――え、なに? 受験は!?」
着ぐるみは一層混乱した声を上げる。
無理もないだろう。
ルイカだって突拍子もないことだということはわかる。
けど、事実だ。ハルの身体には今、2つの命が宿っている。
道義的に言うなら、これを切り捨てることなんてできるはずがない。
「……にん?」
一方、マツリカは言葉の意味が解らなかったらしく、不思議そうな顔をしている。
「えっと……あ、赤ちゃんがいるってことだよ、おなかに」
着ぐるみが言いにくそうに教えると、ようやく状況を察したのか、愛らしいはずの顔を歪めた。
「ええぇ……? お手上げだよぉ……こんなの無理だよぉ」
すすり泣きを始めたマツリカをその毛皮で抱き留めながら、着ぐるみは進退きわまったような声を上げる。
「それで……か」
それまで静かにしていた中年が、床に手を突いたままのルイカに言った。
ルイカは声もなくうなずく。
そう、ルイカがこの数日間、苦悩し続けていたのはそのためだった。
眠ることさえできなくなっていた理由だ。
つい先日、告げられたのだ。「妊娠したかもしれない」と。
それだけでも手に負えない事態だ。なのに、その上、どうしてこんなことに!?
――客観的に見て、ルイカの父は人間ではない。
あの青い神様もどきと比べたって、どっちが人間らしいかなどわからないほどだ。
冷血で、他人を道具か何かのようにしか扱わない。母に対してさえそうだった。
そしてルイカのことさえ、自分の後継者以外の価値をまるで見出していない男なのだ。
ルイカはあの父親に、家族として接してもらった覚えがない。
だからこそ疎んでいたし、ハルの妊娠のことで泣きつくことなどできなかった。
あの冷血な親父にしてみれば、ハルとその子供は後継者であるルイカの人生にとっての汚点でしかない。
どんな手を使ってでも「無かったこと」にするはずなのだ。
ハルはそれが理解できず、父に相談しようとルイカに言ってきたが、頷くことなどできるはずがなかった。
ハルは知らないのだ。
ルイカの父が、どれほどおぞましい人でなしなのかということを。
だからこそ、ルイカがやらねばならない。
なんとしてでも、ルイカがこの手で、ハルを、そしてその子供を守るしか、ないのだ。
たとえ、父をこの手にかけることになったとしても!
「そうか。わかった。――――となれば、選択肢は一つだ」
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