物語に終止符を打つ【俺】の物語。
屋敷の庭の桜の樹が綺麗な花を満開に咲かせた。
3月末のとある晴れた日、今日は屋敷の庭で友人たちや学校関係者を集めたガーデンパーティである。
ノアとクロエの帰国が決まったのだ。そして、トニーの離職も。
二人は9月から予定通りロンドンの大学に進学するのだという。ロックフォード家は学校の経営権も手放し、高校の名称も4月から元の「東京令和国際高校」に戻るのだ。トニーは異世界に帰ることになった。
「寂しくなりますねぇ。」
バンちゃんが他人事のように言う。
「バンちゃんは帰らなくてもいいの?」
俺のすぐ隣で真綾が尋ねる。
「ええ、僕には魔王監視任務の続行の命令が出ていますから引き続き日本にいますよ。」
でもお前の場合は「監視」って距離感じゃないよね。超近いんですけど。
「そうですか?『
お前ずいぶんと難しい言葉を知ってんな。
「そ、近いのがいちばんだよぉ。私も
ステラが真綾の反対側から俺にくっついてくる。だから近いって。それに潜入って相手にバレたら意味ないでしょうが。
バンちゃんがそよ風に舞う花びらを捕まえる。
「きれいに咲きましたね。住めば
アメリカよりもか?
「いえ、実家よりもです。だからステラのこともよろしくお願いしますね。」
「はい、任せてくださぁい。」
ステラが満面の笑みで手を揚げる。だいたいそこでステラが返事しちゃダメでしょ。
そうだよなぁ。勇者として生まれ、育ち、振舞わなければならない環境は窮屈だもんな。だからこそ俺はステラを引き取ることにしたんだ。財閥の連中も俺に対してビビリすぎていたし、もし俺が断ったら彼女がどういう扱いを受けるか想像に難くない。きっと勇者の血を引く男に当てがわれて「子を産む機械」扱いされていたことだろう。俺に対抗しうる勇者を作りだすために。
ステラが自分と同じ「生贄」として引き取られた聞いた真綾には泣かれてしまった。俺に裏切られたと感じたんだろう。でも俺はステラには指一本触れるつもりはない。⋯⋯今のところはね。だって完全に
人間が人間と関わっていく以上変わっていくんだ。俺はマーヤを失い、長い時を経て初めてそれに気づいた。人間に不変なんてない。絶えず変化していく。それを恐れて縮こまっていけないんだ。むしろ全て受け止めてから一歩前に踏み出して行かなければならない。俺の場合は受け止めるまでずいぶん時間を食ったけど。
「ステラ、ノアとクロエに挨拶に行くよ。」
「はぁい。」
バンちゃんがステラを連れ出してくれた。
「もう、あんたはステラちゃんにデレデレし過ぎ。」
真綾がお怒りである。だって可愛いし、見ていて飽きないんだもん。俺が真綾の手を握ると彼女も握り返してくる。良かった、そこまで怒っている様子ではない。
「真綾、いつも心配させてごめん。そしてありがとう。真綾のおかげで俺は今すごく幸せなんだ。だから俺もきみが幸せでいられるように全力で頑張るから。」
「誓える?」
え、ここで?みんなの目の前で?俺が目を閉じると真綾は俺の鼻を摘んだ。ちょ⋯⋯結構痛いから思い切りはやめて。目を開けると真綾は少しそっぽを向きながら言った。
「あ、⋯⋯あとでなら良いわよ。」
おお、これがデレと言うやつか。ツンからだいぶ⋯⋯いや、忘却の彼方くらいに遠く離れたデレだけど。
「奏、一曲
酒で上機嫌のトニーが絡んでくる。ピアノを弾くだけだぞ。俺は絶対に歌わねーからな。
俺のピアノに合わせトニーの甘い歌声が響く。
【Life goes on】
これからも俺たちの「
そしてこれからも俺たちの「
この「
俺は昔、魔王討伐の旅が終わった日のトニーの言葉を思い出していた。
「イタリア語で『終わり』は『fine《フィーネ》』って言うんだ。でも同じ綴りで英語の『fine《ファイン》』は『素敵』って意味になる。どうだ?俺たちの旅の終わりはまさに素敵な結末を迎えたじゃないか。」
そう、素敵な人生という旅路を共に最後まで。俺は真綾に誓おうと思う、この命にかけて。
《完》 (⋯⋯いやここは《fine》やろ!)
(この後エピローグとちょっとした設定集がつきます)
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