清浄世界を求める【女神】の物語。

 私は転生を司る女神。だから様々な人間の終わりと再生を見てきた。なぜ人は争うのだろう。それは嫉みがあるからだ。他者と自己を比較する。全員が別個の存在だから比較することなど不可能なのに、勝手に用意した物差しで勝手に測っては絶望し、羨み、欲し、そして奪う。私はその有害な感情が無い世界が欲しかった。そう、その被害者は常に無垢なる魂を持つ者たちなのだ。


 人間の魂は全て創造主オリジンが生み出したものだ。それは数万の数万倍とも言われるそれぞれの世界に散りばめられる。


 それぞれの造物主クリエイターが作り出した世界で生を受けた魂は人間として生き、様々な試練に打ち勝ち、その魂の次元を高めていかねばならない。


 だからより高い存在として転生する魂もあれば、さらに厳しい試練を受けるために転生するもの、休息のために平凡な者に転生するものと様々だ。


 いずれにしても最終的に目指すのは神界エリーシア。極限まで磨き上げられ、全てを受け入れ、全てを愛し、全てを許すことができる魂だけが行き着ける世界。宗教では「天国」や「極楽」あるいは「涅槃ねはん」と呼ばれる世界。そこにまで辿りつけるのは極少数に過ぎない。


 よって人間は世界から世界に転生によって渡り歩く運命にある。それは煉獄とも言えるだろう。


 これまで転生を司ってきた私にもチャンスが巡って来た。エリーシアへと還る神に代わり一つの世界を扱って見ないか、と。


 こうして私は転生を司りつつも自分の世界を作りはじめた。それは自らの世界に創造主からいただく新たな魂そして別の世界から高められた魂を導き入れることである。


 私は世界を作るにあたりずっと試したいことがあった。ここに「小さな天国エリーシア」を作ることはできないものかと。


 争いもなく穏やかで平和な世界。罪人も野蛮な者もいない純粋な世界。私は自分の新しい世界のこう名付けた。


調和の世界ハーモニア」である。

音楽で考えてみて欲しい。人間一人一人が音符であるならば、五線譜から一人でも外れたら旋律メロディーが崩れてしまう。それは不協和音であり耳障りな音に過ぎない。


 作曲家が演奏家に完璧を求めるように私の作る世界には調和と美しさが必要だ。美しい旋律は重なり合ってシンフォニーとなる。美しい音楽が人を感動させるように、完全に律せられた美しい世界もまた感動を呼び起こすのだ。


 私の世界に必要なのは完全なる調和だ。それを実現するために必要なもの。それは完全に意思統一された音楽家である。そして作曲家と指揮者に服する音符、つまりは魂だ。


 私は美しい魂の収集を開始し始めた。

そして、世界を美しくするために犯罪が絶対に起こされない監視みまもり体制を作った。人を堕落させる性的で暴力的な表現を見るもの、聞くもの、言葉から取り除いた。


 エリーシアに行けばみんなはみんな自分を律することができる。自分と他人を尊重できる。まだそこまで魂が純化されていないなら、助けてあげればいいのだ。ここで美しい生涯を送れば魂のステージはぐっと上がる。エリーシアにまた近づけるのだ。


 これが私の理想の世界、「ハーモニア」。しかし、外野がうるさくなっている。私の魂の収集方法に疑義を唱える者もいる。身辺を嗅ぎ回る者もいる。


 ある日、私の眷属がスパイを捕らえる。次元を渡ることができる魔女だ。彼女は尋問にも口を割らず、私は念のため近しい神の治める世界に幽閉してもらうことにしたのだ。私の邪魔をする者が現れ始めたのだろうか?


 私は守らなければならない。私の作るこの美しい世界を。









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