自分の部屋が広くなった【私】の物語。
「お風呂ありがとうございました。やっぱり日本の風呂は最高ですね。トニーもエリクサーありがとうな。」
これが小津健介さん。最後のパーティーメンバー。
彼が行っていた異世界は第二次大戦当時の地球に似た世界で、魔法を使える人間は彼一人だったそうだ。だからこそ、魔女はそこに幽閉されていたのだ。
「しかも放り出された地点がハワイですよ。そして例の魔女が幽閉されているのはドイツ。俺が使えるのは治癒魔法だけ。これは詰んだ、って思いましたよ。」
どうやって移動したんですか?
「アメリカ軍に入ったんだ。日系人部隊にね。第100歩兵大隊ってとこね。そこからアメリカ本土に渡って軍事教練を受けた後、ヨーロッパ戦線に送り込まれたんだ。イタリア、フランス、と転戦してやっとドイツ。ダッハウって街の強制収容所に魔女が幽閉されててさ。彼女を助け出すまで4年かかった。」
どこかで聞いた話だ⋯⋯。奏が呆れたように言う。
「お前、あの第442連隊戦闘団に行ってたのかよ。治癒魔法師がいたらそりゃ強いわな。」
こちらの世界のアメリカ軍第442連隊戦闘団はアメリカ陸軍史上最強と呼ばれる部隊で兵士のほとんどが日系人によって構成されていたのだ。そのチート振りは死傷率314%という数字に現れている。負傷しても動ける兵士は病床を脱走して最前線に戻って行ったのだ。
「俺は自分に結界を張って、とにかく負傷者の手当てをしまくってた。魔力も制限されてるからもう手に負えない負傷者もいた。たくさん亡くなったよ。酷い戦いだった。みんな自分が逃げたら家族がより辛い目に遭わされる、そんな状況だった。何しろ家族は財産を没収された上、強制収容所に押し込められてて人質状態。そうだなぁ。全員が毎日背水の陣。俺たちが魔王との最終決戦のあのギリギリの状態が毎日続くんだもん。⋯⋯しばらくはゆっくりさせてくれ。」
とりあえず健介さんとエリーさんはしばらくお屋敷にとどまることになった。
健介さんはトニー先生に小さな球体の機械のようなものを渡す。
「これが例の異世界の座標だ。魔女から預かってきたよ。」
トニー先生はそれを受け取るとすぐに自分の収納に入れる。
「サンキュな健介。これでラストピースはそろった。あとは
「わかった。」
奏もうなずく。
「真綾。お話があります。」
三ヶ日が明けて忙しさも落ち着いたころ椿姫さんに呼び付けられる。
「お話とはあなたのお部屋のことです。現在あなたが使っているのは使用人の部屋です。あなたが旦那様のパートナーとなった以上、そこを明け渡してもらいます。」
え、じゃあ私はどこで寝るの?
それは奏の寝室の隣の部屋であった。うわっ、近っ。屋敷の2階の東の部分は夫婦のスペースになっていて。北から主寝室、夫人の個室、書斎となっていて西側の廊下に出なくても東側にベランダがあってそこから行き来もできる作りだ。
現在、奏のゲーム部屋になっているところが私の部屋になる。
「そして、あなたの業務時間外、私服での表の移動を許可します。ただ、他のメイドに対して模範的なものであるべきです。」
はぁ。模範的ねぇ。私が一番若いんですけど。あんまりだらしない格好をしないように、ってことね。
そこから私の引っ越し作業が始まった。1年使ってようやく落ち着けたんだけどなぁ。何せ今度の部屋の広さがこれまでの3倍である。都内で18畳の個室ってどんだけ贅沢なの。これまでの荷物を全部運び入れてもまだスペースがある。
奏とのデートは今のところ奏の部屋や書斎が多かったけど、そのうち私の部屋にも呼べるようにしよう。
紗栄子や華を呼んだらびっくりするだろうなぁ。
3学期が始まるとリアム君たちも再び来日する。これから最後の戦いが始まるんだ。
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