年始に元メンバーと会う【俺】の物語。
新年を迎える。去年はこの屋敷に手を入れていてバタバタしていたため、あまり正月気分ではなかったが今年は政府や地元商店街との関わりのおかげで色々と来客が多い。
年始の挨拶に防衛大臣や総理の秘書官と言った政治関係者が次々と屋敷を訪れる。スーツを来た官僚や礼服を来た政治家に混じって近所のおっさんがサロンでたむろしているのはなかなかの光景だったらしい。
最後の客がトニーだった。呼び付けたのが俺の方なのだ。
「俺のおかげで告白がうまく行ったんだから、少しはもてなせよ。」
相変わらずである。いや、異世界にいた頃はプライベートを一緒に過ごすことはほぼなかったから、今の方が頻繁に会っている気がする。
彼とは大食堂で食事というよりもサロンで軽食を取りながら飲む、という場合が多い。俺は彼に改めて真綾の血の複製を依頼した。
「もうパートナーも同然なんだから連れて歩けばいいだけじゃないか。」
そういうわけじゃないんだ。結局、今度は彼女が俺の「弱点」であることが露呈してしまったのだ。俺を倒そうと目論むものはまず真綾の存在を排除することから企てるだろう。まだこの弱点はアメリカしか知らないのがもっけの幸いなのだ。アメリカがこの情報を他国にリークする可能性はまだ低い。
恐らくアメリカは日本政府に圧力をかけ俺の力を自国の覇権維持に利用する方へ、方針を転換するはずだ。
「そうだな。マーヤの悲劇を繰り返す必要はないからな。」
それにいちいち恋人に身体を傷付けて血を流してもらうのは嫌だ。
今度はパチモンは無しで頼むぞ。
「心配するな。次は俺の仕事を手伝ってもらうんだからな。それに、ホンモノのマーヤの血の複製も俺がきちんと預かっている。それもちゃんと渡すよ。」
「あ、トニー先生。いらっしゃいませ。」
真綾が仕事が終わったらしく、サロンに顔を出す。飯は?
「これからー。」
彼女は俺の隣に腰掛けるとメイドのサナが彼女の前にトレーに乗せた食事を置いた。
「仕事終わってもメイド服なのか?」
トニーが尋ねる。
「うん。奥(屋敷のスタッフのスペース)は私服でもいいんだけどね。表(主人が暮らすスペース)に出る時は制服着用なんだよね。」
「そう言えば二人とももうやることは済ませたのか?」
いや、トニー。こういうところでする話ではないな。真綾が顔を真っ赤にして俯いている。
「なんだ、まだか。」
なんだとはなんだ?藪から棒に。
「いやな、真綾ちゃんの血に力があるならば成分が血液由来の母乳でも同じ効果があるか試したらいいんじゃないか?」
俺は一瞬想像してしまった。いや、そんな魔王はいやすぎるわ。
そこにセバスチャンが入って来る。
「旦那様。火急のご用事とかでエリス・ワイルド様がお見えですがお会いになられますか?」
エリーが?と思った束の間、ドアがバンという音と共に勢いよく開かれるとエリスがツカツカと入って来る。いや来るやいなやトニーの胸ぐらを締め上げた。
「どうしたエリー?⋯⋯苦しい。」
エリーの目は完全に座っている。
「
まあエリー、少し落ち着いて。そういう場合じゃないということはわかるが。トニーの顔が紫になって来たからちょっとやめてあげて。
もはや魔獣か、と言った状態のエリスをなだめ、なんとかソファに座らせる。
なんでも今日、健介が異世界から帰って来て久しぶりのデートのはずだったらしい。それなのに約束の時間になっても彼が現れない。
トニーは時間を確かめる。
「そろそろかな。」
すると空間に闇が現れ魔法陣が現れる。そこから現れたのは軍服を着たGI刈りの青年だった。
軍服は埃と泥と硝煙の臭いに塗れ顔も油で汚れておりまるで先ほどまで戦場で戦っていたかのようだった。
「
エリーが抱きつく。
「ただいま、エリー。ごめん、ずいぶん待たせて。俺は何年。
時間を気にする健介にトニーが答えた。
「大丈夫だ。予定より少し遅れたがまだ2か月だ。」
「そうかぁ。」
健介が床に大の字に仰向けになる。
「奏、お風呂貸して。」
エリーの頼みに俺は思わず椿姫の顔を確認してしまう。表情には出さないが心底嫌そうだ。
「浄化魔法を使ってからなら⋯⋯。」
エリーは健介を抱き起こすと嬉しそうに言う。
「OK椿姫。じゃ健介、一緒に入るよ。お風呂デートだね。」
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