決戦に向かう【勇者】の決意。

「まさかお前がトニーの言う通りにするとは思わなかったよ。魔王と手を組むとかな。」

ノアが言う。その声には非難ではなくむしろ称賛がこめられていた。


 僕はこれまで不条理な人生を歩んで来た。「勇者」となるべく遺伝子操作を受けこの世に生まれた。「勇者」になるために子どもらしく生きる権利は奪われてきた。勝手に婚約者を決められ、留学先へ行く矢先、今度は魔王討伐のために日本へと送り込まれる。


 魔王に良いようにあしらわれ、強さを求めて神にすがり、苦痛に耐え転生まで果たす。婚約者と心を通じ合わせ、真の勇者へと覚醒するも暴走し、愛する者を犠牲にしてしまう。


 そして、それは全て婚約者の魂を回収するため女神によって仕組まれたものだった。これを不条理と呼ばずしてなんと呼ぼう。


 僕には怒っても良い権利があるのだ。それすら神々に一時の興を呈するに過ぎないとしてもだ。ノア、僕をバカだと思うかい?


 「いや、お前は勇者だ。そしてそれ以上にただの人間だ。昔のお前より今のお前の方がずっと良いやつになった。だから俺はお前に付き合うことにするさ。それはクロエやステラも同じ気持ちだ。それにマリーは本当にいいだった。⋯⋯でもお前はいいのか?あの魔王と手が組めるのか?」


 僕は本音を言った。マリーを葬った日トニーは俺に教えてくれた。彼が魔王になった経緯いきさつを。そしてそれはすでにジャスティンからも同じことを聞いていた情報と同じだったため間違いはないのだろう。


 もし僕がマリーを助けるためなら間違いなく彼と同じ決断を下す。


 やはり僕はバカなのだろう。もはや魔王を愚か者とは侮蔑できない程度にはね。笑ってくれて構わない。


「そんなことはないよ。私はリアムが大好きだよ。」

 いつからそこにいたんだろう。クロエとステラが声をかけてくれた。

「そうだ。あなたは私たちのリーダーなのだから。」


 そうか。僕は今まで君たちのことを部下程度にしか思っていなかった。仲間とは言えもとは競合する企業を持つライバルの家柄同士意思を通わせても心を通わせるつもりはなかった。


 魔王という共通の敵と対峙たいじするからこその仲間のはずだった。魔王に敗北した今、それぞれがここにいる理由なんてもうないのだ。でもこうして皆集まっている。


 「リアム、魔王はこの世界との共存を選んだ。だから私たちの戦いは決して失敗じゃない。そして、今度はマリーが行った世界を救う勇者になろうよ。私たちならきっとできる。そして、今のリアムならきっとできると思う。」


 形式ではない初めての抱擁ハグを交わす。


「迎えに来たぞ。奏とジャスティンはすでに向こうで待ってる。」

トニーがそこに現れた。ついに作戦が始まるのだ。

「用意はいいか?」


僕たちは装備を装着するためのデバイスをかざす。僕は叫ぶ。

「Might is Right!【力こそ正義】」


達成してやる。俺の力で、いや、みんなの力でだ。

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