居丈高な権力者たちに正しい立ち位置を教えてあげる【俺】の物語。

 俺は勇者たちとの事後処理のためアメリカのキャンプ・デービッドを訪れた。もちろん、非公式ながらアメリカ大統領と財閥の当主たちに呼び出されたのだ。


「君の望みはいったいなんだ?」

年寄りたちは未だに自分の立ち位置を理解できていないようだった。魔王に戦いを挑んで敗れる。それは世界の終焉を意味することを未だに理解できていないのだ。ただ俺もあまり立派に魔王をやり抜きたいとも思わない。また勇者呼ばれたくないし。


「俺の望みはあなた方との共存です。以後俺の身辺を煩わさないでください。私の基本的な力は『土』属性です。アメリカ全土に隕石を降らせるのも良し、アメリカ全土の全生物を宇宙旅行に招待しても良いですよ。全てはあなた方の出方次第です。」


 そう、重力キャンセルをすれば人間など一瞬で地球の公転から置いて行かれるのだ。生身での宇宙旅行。土属性魔法が最凶最悪と言われる所以だ。


 俺の最大限の脅し文句に皆息を飲む。それがあなた方が戦いを挑んだ相手だ。彼らは俺の言う「共存」の定義を知りたいようだ。


「とりあえず私は家でのんびりとゲームをして過ごしたい、それを邪魔しないでいただきたい。ただそれだけなのです。もし聞き入れないとおっしゃるのであれば

次はアルマゲドンです。」


 次は戦いではなく一方的な大虐殺である。残念ながら俺は躊躇はしない。俺は平和ボケした日本人ではなく強大な魔王と傲慢な王宮を相手に命のやりとりをしてきたのだ。


「日本を出て我々に仕えないか?日本政府が10億ドル出すなら我々はその10倍だそうじゃないか。」


 それが彼らの申し出オファーだった。まだわかってないのか。では、教えて差し上げよう、あなた方の立場というものを。俺が指を鳴らすと財閥の当主たちが悲鳴を上げる。術士に結界魔法を張らせてはいるが、魔王の魔力で簡単に突破する。


「何をした?」

簡単なことだ。お前たちの口と肛門の位置を逆にしてやったんだ。これは取り引きではない、命令だ。お前たちは負けたんだ。俺は和平を模索する大使ではなく進駐軍の長としてここにいる。さあ跪け。次はお前たちの鼻とペニスの位置を入れ替えてやる。そして、最後のお前たちの目と乳首の位置を入れ替えてやる。


「お許しください。」

 やっと勝敗が決する。彼らが乳首の位置にある目から涙を流しながら跪く。魔王の支配魔法「五体倒置」の真骨頂だ。それで一生涯過ごしたいのか?


  俺は魔王だ。だから言っておく。俺は民衆に額ずかれることを望まない。民衆が額ずく権力者に額ずかれるのを好むのだ。そう、仕えるのは俺じゃない。お前たちだ。魔法を解くと彼らは失神する。


 俺は周りのボディガードや術士たちが恐怖に打ちひしがれた感情を俺に向けられるのを意識しながらそこを辞した。リアムは差別主義者ではあったが、その代わり強敵にはそれなりの敬意を持てるやつだった。リアムを送り込んだやつらは知るべきなのだ。俺がこれまでお前らを虫ケラ以下に扱おうとしなかったのはリアムの騎士道精神をかんがみてのことだ。


屋敷に戻る。


「奏、きみはマーヤの行った世界を見たことがあるの?」

健介が俺にふと尋ねる。俺は肯く。決して悪い世界じゃないよ。自由は無いけどね。息も詰まるし、ゲームだって「テトリス」と「太鼓の達●」しかなさそうな世界。極度に安全な世界だからきっとマーヤも酷い目に遭わされずに済むだろう。


「本気で言ってないよね?」

当たり前だ。なぜ俺が異世界の女神の満足のために愛する人間を奪われなければならんのだ。


 俺がやっとの思いで作りあげた幸せな世界。心から愛するマーヤと、魔族の仲間たちとの幸せな暮らし。その全てを根底から覆したのはその女神だ。


 これは意趣返しに過ぎない。愛する者を無惨に奪われた者がいやというほど味わう後悔と自責の念。そして繰り返し襲われる喪失感と寂寥せきりょう感。これら全てを一言で表せば「絶望感」である。これを味わさせられて嬉しいか?

怒りを覚えてもいいと思わないか?


 そしてその怒りを堪えるため俺はこの世界に帰ってきた。争いたくはなかった。しかし女神はなおも俺に対して勇者パーティの送り込んできた。悪いが我慢の限界は突破した。あくまでも俺を道化ピエロとして扱うのであれば俺も一つくらいやり返してもバチは当たらないはずである。



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