意外な黒幕に唖然とする【俺】の物語。

リアムの慟哭どうこくが響く。


 ノア⋯⋯。ここで手打ちにしないか?俺はあまりの顛末てんまつに喉が渇き切ったような声しかだなかった。

「ああ。」

 ノアもそれしか言えなかった。ステラが泣きながらマリーに復活レイズをかけ続ける。

「もう、魔力がないよぅ⋯⋯。マリー!マリー!目を覚ましてぇぇ!」


 それは俺がかつて見た光景。絶命寸前のマーヤを必死に治療する健介の姿が重なる。俺はステラの肩に手を置き、自身の残りの魔力を注ぎ込む。


 しかし、奇跡は起きなかった。


 マリーの魂は恐るべき速さで転生の女神のもとに旅立って行った。まるで「回収」でもされたかのように。


 そこにトニーが現れた。てめえ、よくもパチモンつかましやがったな。俺の殺気だった目にウインク一つでごまかそうとする。

「どうやら雌雄しゆうは決着したようだな。勇者諸君の任務はここで終了だ。ここから先は奏と合衆国政府との話し合いになる。そして、俺からお前たちと奏に聞かせたい話があるんだ。明日、王都に来てくれ。」


 翌日、俺たちは王都にあるトニーの工房に招かれた。


 俺は真綾だけをともなって訪れた。リアムとバンちゃんは欠席しノアとクロエ、そしてステラがそこにいた。トニーが口を開いた。


「俺が異世界の神様たち相手に魔法具マジックアイテムの取り引きをしてるのは知っているよな?実はな、この世界の転生の女神にとある疑惑がかかっているのさ。」


 疑惑?

「そう、この世界は『創造主オリジン(一神教の神)』のもとに『造物主クリエイター(多神教の神)』がそれぞれ支配する多元宇宙が存在する。いわゆる水族館と水槽の関係だと思ってくれればいい。その異世界同士の間を取り持つ『転生の神コーディネーター』が存在するんだ。そして、この世界を担当する転生の女神が、造物主として新たに自分の世界を造っているそうなんだが、住民の集め方が問題でね。『無垢なる魂』を持った転生者だけを集めて理想の世界を造っているらしい。」


 ん?悪いやつがいない世界なら不幸が起きなくていいじゃないか。それってどこがいけないのか?

「いや、自分で育てるなら問題はないんだ。ただ、どの世界の神だって自分が育てた世界の善き住民を『転生』という形で奪われたらどう思う?」


 確かに面白い話ではないな。

「そう。大切に育てて来た果実が鳥に美味しい部分だけついばまれてしまうようなものさ。

 ただな、お前たちが女神に対して怒りを覚えても良い権利はある。集め方がかなり乱暴なんだ。無垢な人間を死ぬように仕向け、手早く魂を『回収』する。今回のマリーもそうだ。」


「どういうことだ?」

ノアが珍しく声を荒げた。


「今回、女神がリュパートとお前たちに肩入れしたのはただじゃない。その代価はマリーの魂だったのさ。これはマリーを殺すために女神によって仕組まれた茶番劇だ。」


 そいつは酷いな。つまり都合よくトニーやジャスティンが現世に召喚されたのもリュパートがこの世界転生できたのも全部女神の差し金ということか?証拠はあるのか?


「俺だな。なにしろマリーの魂を回収する依頼を女神から受けたのが俺だからさ。」

おい、とんでもないことをつらっと言ったな。

「トニー、貴様!」

ノアがトニーに掴みかかる。


「まあ落ち着け。」

落ち着けるかよ!

「実を言うと二重スパイなのさ。その依頼の前に俺は複数の世界の造物主たちから魂の違法回収の証拠を押さえるよう別の依頼を受けてされていた。そして、事実がはっきりとした今、新たな依頼がある。」


 女神を倒すのか?

「さすがにそれは無理だ。存在できる次元が違うのでね。ただ、その女神の作った世界を『破壊する』ことはできる。つまり『無垢』ではない『普通』の世界にしてやるのさ。」


 でも、俺は関係ないよな?俺がいつもの「怠け癖」を見せるとトニーは人の悪そうな笑顔を見せる。


「残念なことに奏、お前も無関係じゃない。マーヤの魂を回収したのもその女神だ。つまり、マーヤの死も実は同じ女神の差し金だったのさ。」

なんだと?俺は血が逆上するのを感じた。


「その女神はマーヤの魂がどうしても欲しかった。だからマーヤに似た真綾のために進んで犠牲になったお前を勇者に仕立て上げたのさ。分かるか?俺たちの旅の目的の魔王討伐なんて実はどうでもよかったんだ。マーヤの魂を回収するためのお約束だったってわけだ。」


 マジか⋯⋯。俺も勇者たちも女神のてのひらの上で踊らされていただけと言うのか。しかもその上で愛する者たちを奪われたと言うのか。


「しかし無垢なる世界の破壊なんてできるのか?」

ノアの疑問に俺も同感だ。


「それは難しくはない。⋯⋯ここにいる俺たちならね。」

つまり今度は魔王と勇者が共闘しろ、ということか。






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