ピンチに陥った【俺】の物語。

「旦那様!」

 アレイスターも俺の負傷に気づく。しかし、駆け付けようにも今相対するリアムの剣撃を受けるのに精一杯だ。


「しかし、あちらも魔力源は絶たれた。一気にかたをつけ、旦那様を助ける。」

椿姫が叫ぶ。


 俺はトニーにもらった「マーヤの血の複製」を飲む。しかし、効果が現われない。

なぜだ?最初の時は効いたのに。


 自分の傷のあたりに手を当て回復を試みる。くそ、思いの他に浸食が早い。「浄化」魔法なのだから「浸食」と言うのも変なのだが。一瞬、戦闘が膠着こうちゃくし、セバスチャンが俺のもとに駆け付けようとするも椿姫がそれを制した。

 「待てセバスチャン!狙撃兵スナイパーがいる。ドロシー、結界を張りなおせ!」


 そして、そこに現れたのな狙撃用ライフルを背負い両手に細めの十手剣を持った青年だった。もちろん白人だ。だがその放つオーラはなぜかよく知っているものだった。


「紹介しよう。彼こそが我らがパーティの最後のメンバー、ジョージ・ヴァンダム、忍者アサシンだ。」

リアムが勝ち誇ったように言う。


 そうか5人目がいたのか……。そう言えば戸泉総理は言っていた。財閥は「5家」あると。四人しか来なかった時点で残りの一人の存在に警戒すべきだったのだ。


「彼は我々より先立って日本に潜入し、君に対する諜報活動を行なっていたのだよ。」

 なるほどね。生徒会を屋敷に招待した時も、サマーキャンプの時もすでに侵入してたのな。あの時の盗聴器をしかけたのもそいつというのか。


「そう言うことなんだ。ごめんね、ナデちゃん。」

彼の顔が見知ったものになる。⋯⋯坂東成二ばんどうじょうじ。それが君の仮初の姿だったのか。ジョージ・ヴァンダムの名をもじったにしては雑すぎる。 


バンちゃん、いやジョージはいつもの飄々ひょうひょうとした感じを崩さない。

「トニーが君に渡した倍加魔法エンハンス錠剤も本物は最初のものだけ。後はニセモノだよ。ついでに念のため真綾も封印させてもらった。だから今朝の君の精一杯の告白を彼女は聞いてはいない。残念だったね。せっかく勇気を出したのに。」


 ぎゃーーー。おまえアレ聞いていたのか!?死にたいくらい恥ずかしい。いや、ちょっと本気で死にかけてるやんけ!ふざけている場合ではないんだ。


 この一瞬の戦闘の途切れを見計らい、四天王たちが俺のもとに駆け寄る。

「絶対絶命ですな。どうしますか旦那様?」

アレイスターは竜人なんで目だけだと表情が分かりにくいんだよな。


 どうにもこうにも、全力で抵抗するっきゃない。


こうなったら、生きて帰ってもう一度、顔を見てちゃんと告白してやるんだからね!


「⋯⋯って恥ずかしいこと大声で言ってんじゃないわよ。出てき辛くて仕方ないじゃん。」

そこに真綾が現れる。彼女はかつてマーヤの着ていた白い装備を着ていた。


「なぜ君がここに?眠り姫パドシスの魔法をかけたはずなのに!」

バンちゃん⋯⋯いやヴァンダムが声を震わす。真綾は苦笑ぎみに言った。

「あ、私の髪留めバレッタね、マーヤさんの形見なんだ。トニー先生ご謹製の逸品なの。だから一つだけ魔法が使えるの。奏のそばにいつでもすぐに移動できる、マーヤさんの⋯⋯あ、⋯⋯愛の魔法がね。その、私じゃなくてマーヤさんの方だからね!」


 彼女は剣を抜くと小指の先を切っ先に押し当てる。少し顔を歪めた真綾はその血を俺が傷口を押さえている手の甲に垂らした。

「奏、絶対に勝って。勝って話し合いに持ち込んで!」

真綾の目は俺の勝利への確信に満ちていた。……ああ。任せろ。


「まさか⋯⋯真綾の方の血も倍加効ありなのぅ!?」

ステラが息を飲む。


 俺は力が漲るのを感じた。傷が癒えると同時に浸食してきた浄化魔法を押し戻す。勇者たちの遠距離魔法攻撃をしのいでいた四天王がこちらを振り返る。

「間に合いましたな。」

アレイスターが俺の手を引っ張り起してくれた。これで五分五分だ。

「ええ、ここからが反撃ですよ。一気に押し返しましょうぞ。」

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