魔王にも告白される【私】の物語。

 バンちゃんと話して少し楽になった気がした。

「きっと大丈夫だよ。ナデちゃんはそんなに酷いことはしないよ。いずれにしても勇者と魔王が戦わないとぼくたちの修学旅行は終わらないからね。」


 そうだよね。「死ぬ気で」「殺す気で」という比喩だよね。⋯⋯でも知っている。勇者として旅をしている時、奏たちは盗賊たちに対しては本当に情け容赦なかったのだ。マーヤも何度かドン引きすることもあったんだ。


 ⋯⋯なんか眠い。


 強烈な眠気に襲われる。一服盛られた?いや、そんなはずはない。奏は私を戦場に連れて行きたいんだ。そんなことをするはずがない。その時だった。


「⋯⋯真綾さん。」

マーヤさんの意識が呼ぶ。

「これは睡眠魔法スリープです。意識をこちらへ。」

脳裏でマーヤさんの手が伸ばされる。私がその手を握ったところで意識が途絶えた。


 「良かったわ。ここが私の部屋で。」

マーヤさんがいつも以上にリアルな感覚だ。私の意識は髪留めバレッタの魔石に移されたみたい。


 私は自分の身体を天井近くから見下ろしていた。こ、これって「幽体離脱」では?焦る私をマーヤさんはおかしそうに見ている。


 「ちょっと違いますけど、大丈夫です。ちゃんと身体に戻れますよ。」

バンちゃんはベッドに倒れこんだ私の身体を仰向けに直すと布団をかける。

ちょっとドキドキしてしまう。まさかの展開にはならなくてほっとした。


「ごめんね真綾。少しだけ眠っていて欲しいんだ。⋯⋯ことが片付くまでね。」

バンちゃんはベッドの下に手を突っ込む。そしてすぐに手を抜くと部屋を立ちさって行った。


 つまり、バンちゃんが私に睡眠魔法スリープをかけたということはつまり、魔法使いなの?


 この後、私の意識はマーヤさんと共に


 翌朝、ドアをノックする音がする。

「真綾。聞こえる?」

奏だ。朝だというのにもう起きてる?やっぱりゲームが無いからか。


 しばらく扉に腕を突いて俯いていた奏が口を開いた。

「行ってくる。本当は俺だって戦いたくない。真綾の言う通り話し合いで済ませたい。勇者相手に戦うのは本当にしんどいんだ。俺だって命がけなんだよ。⋯⋯だから最後までそばにいて欲しかったんだ。『話し合い』に持ち込むために俺は戦うんだ。


 これは俺のわがままだけど。もし、この件が片付いたら俺はもう一度日本政府と交渉してもいい。真綾を元の世界に、いや元の社会に返せるように。


 ほんとにこれまでごめん。最初は日本政府はなんてめんどくさいことしやがったんだって怒りもしたし呆れもした。でも俺は真綾を手放せなかった。だってマーヤを守れなかったダサイ俺にとって真綾の存在は光そのものだったんだ。俺は真綾に一方的に依存していたんだ。だから勇者に勝って真綾を自由にする。


 これ以上君をそばに置いていたら一生君にそばにいて欲しくなる。バンちゃんの方が良いなら、君がそう望むなら自由にしてくれてかまわない。多分、男としては彼の方が俺よりも上だから。


  だから真綾、これまでありがとう。俺は君が好きだ。だから君の決定を尊重する。」


 それまで言うと奏はきびすを返した。ちょ⋯⋯⋯1日のうちに告白2件かよ⋯⋯って言ってる場合じゃない。


 いや、ほんとに私のこと好きなんですかね?破れ被れで言ってるような気がする。だいたい、そんな素振りこれまで1ミリだって見せたことないくせに。


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