魔王との戦いに臨む【勇者】の物語。

 決戦の日だ。トニーとリュパートから異世界の、魔法を使った戦い方を学んで来た。しかし、ぼくの戦いには問題があった。


 ぼくにとって戦いはあくまでも「家」の戦いだった。ロックフォードという家の、そして合衆国ステイツという国家のものだった。自分は自分を兵器だと思っていたし、家族もぼくをそれ以上にもそれ以下にも扱おうとはしなかった。


 ぼくの戦いを変えたのは転生の女神とマリーだ。二人の女神によって生まれ変わったぼくはぼくのために戦う。


「お気をつけて、リアム。」

マリーは潤んだ瞳で僕を見つめる。彼女の手にはぼくが贈ったロザリオが握られていた。大丈夫だ、心配ない。そのペンダントは君を守るためにトニーにあつらえさせたものだ。それでぼくの無事を祈って欲しい。


 指定した戦場に着いたのはこちらが先であった。

「よかった。これで勝率がグンとあがったな。」

リュパートとトニーがほっとする。彼らは東側の山に魔法による陣地を構築し始めた。方角に意味があるのか?トニーが苦笑混じりに答える。


「あれ、奏のメインは土属性と言ってなかったっけ?やつは重力魔法が使えるんだよ。いいか、岩石をこの惑星から重力を遮断してみろ。惑星の自転から取り残された岩石はどちらに飛ぶ?」


 そうか東から西へと音速を超える速度で飛ぶのか。


「そ、やつの特殊魔法『怪落転かいらくてん』だ。人間の軍隊なら全員飛ばされて秒単位で全滅だ。なにしろ音速で壁に叩きつけられるからな。酷いぜ。人間の身体の7割は水分だからな。水風船が破裂したみたいになっちまう。だからやつの背中を西に向ける必要があるの。」

それでずっと「ポジション取り」と言っていたのか。


 魔王側も到着したようだ。彼らも陣地の構築を始めた。邪魔しなくても良いのか?リュパートが答えた。

「アイデアとして悪くは無いぞ。ただあまりこちらの手の内を明かしていく必要もないだろう。」


 陣地を築くには訳があるというのだ。知性の低いモンスターを相手に戦うには必要ないが、知性と魔力を持ったもの同士が戦う場合は刃物を使った近接格闘戦は最終段階なのだという。まず遠方から魔法攻撃を交わして互いの魔力を減らし合ってからなのだという。


 陣地の構成が終わると次は地面から巨大なゴーレムが次々と現れる。向こうも同じだ。


 戦闘が始まる。リュパートは隕石を次々に召喚して敵陣地に物理攻撃を加え、敵も雷撃魔法で金属片を超音速で飛ばして迎撃する。確かに結界をしっかり張った陣地でもないとひとたまりもないだろう。


 今度はゴーレム同士の戦いだ。振動がこちらにも伝わってくる。ステラがその音で震えていた。

「嫌だよ。怖いよ。なんで私たちが戦わないとダメなのぅ?」


 大丈夫だステラ、ぼくたちは負けない。そう言って彼女の頭を撫でた。しかし彼女は目をそらす。 

さあ、そろそろ我々の出番だな。


 陣地を守る結界はボロボロになり、魔力の尽きたゴーレムたちも動きを止めて倒れている。これはどんな魔法を使ってくるのかを互いに探るための前哨戦ぜんしょうせんに過ぎない。


 魔力量に関しては魔王側が圧倒的に高い。しかし、我々にはリュパートがいる。彼の魔力召喚という術式によって無尽蔵に魔力が供給されるのだ。ただ供給速度の関係がある。


 魔王はそれを計算に入れて速攻を狙っているのだ。互いの魔操兵器ゴーレムと陣地がボロボロになると魔王の方から撃って出てきた。さあ、ここからが本番だ。


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