決戦に向けて決意を固める【俺】の物語。
「追わなくてもよろしいのかしら?」
ドロシーが俺を見る。仕方がないさ。もともと彼女を巻き込んでしまったのは俺の方だ。戦いを強制はできないだろう。そして彼女と俺との間に信頼関係の無い状態での
とりあえずトニーに貰ったマーヤの血の複製があればなんとかなるだろう。効果は実証済みだ。
俺は作戦について話し合いを再開した。
前衛は勇者側がリアムとクロエが担当すると見ている。
こちらは竜人アレイスターとセバスチャンが対応することにする。
後衛は勇者側が
こちらは椿姫と魔女のドロシーが対応することになる。
そして召喚士のリュパートと精霊魔道士の俺が援護対決という構図だ。
「そう言えばかつては敵であった旦那様とこうして勇者を迎え討つとはな。こんなことになろうとは夢にも思いませんでしたな。」
アレイスターが感慨深そうに言った。
油断するなよ。彼らは十分に鍛錬をして強くなっているし、それにリアムはまだ何か隠している。
「大丈夫ですよ。何しろこっちには旦那様がおられる。万が一にも負けないですよ。」
アレイスターは豪快に笑いながら大きなジョッキに注がれた酒を次々と飲み干していく。
「アレイスター、飲み過ぎには注意せよとマーヤ様に叱られたのを忘れたのか?少し自重したらどうだ?」
ドロシーが注意を促す。マーヤの名を聞くとアレイスターは今度は泣き始める。
「ああ、マーヤ様。⋯⋯マーヤ様。本当にお優しい方だった。私も娘にはあんな女性になって欲しいとマーヤ様に名付け親になっていただいたくらいなのに。あんな酷い目に⋯⋯。あの人間王、絶対に許さん。」
オッサン、飲み過ぎだ。
出発は明日。さすがにいい「ポジション」は取れないだろうな。それくらいはハンデをやってもいい。いや、こう言う余裕が案外死亡フラグだったりするんだ。
俺はかつて過ごした夫婦の寝室に入る。手入れが行き届いていて年月の流れを感じさせない。マーヤが死んでから俺はしばらくここの篭りきりで酒を飲んだくれてばかりいた。
それも俺にとってはまだ僅か1年ちょっと前の出来事だ。それなのにずいぶんと昔の話に感じる。それはきっと真綾がいつも側にいてくれたおかげだ。そして魔族のみんなも俺に見切りをつけることなくずっと一緒にいてくれた。立ち直ったとはとても言えないが、今は前を向いている。
真綾の言うように「話し合い」で済めばどんなにか良いだろう。普通の人間でもいいからマーヤのいる世界にひっそりと転生させてくれるなら俺はこの身を呈してもいいかもしれない。
でも、残された俺の家族はどうなる?この辺境伯領に住う魔人や亜人たちはどうなる?だから俺は俺として生き続けなければならない。自分のためだけでなく愛する者たちのために。そして、心ならずこの世界を去ったマーヤのために。
俺はテラスに出た。満天の星空。
マーヤの今いる世界もこんなに星が綺麗なんだろうか?前世の記憶は残っているのだろうか?赤ちゃんからやり直しているんだろうか?
夢でも良いからもう一度会いたい。
目が覚めるとすでに朝になっていた。ゲームが無いとこれほどまでに健康的な生活なのだろうか。そう、だからさっさと勝って元のゲーム三昧な生活に戻ってやるんだ。
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