戦いを止めたい【私】の物語。争いが生むもの。

 私は間違ってなんかない。


 人が死ぬということは絶対避けなければならないんだ。

 確かに私も奏について戦ったことはあるけど、相手は別の魔王だったし、人の形態かたちすらしていなかった。


 涙が頬を伝う。奏が死んだ日に直面した恐怖と絶望感が蘇る。リアム君、ノア君、クロエさんやステラちゃん。みんな殺しあう相手なんかじゃない。主義主張の違いでそんなことをするなんて私には到底受け入れられない。


「あれ、真綾?」

紗栄子と華に廊下ですれ違う。私は涙を見られたくなくて足早にその場を立ち去った。部屋に戻ると私はベッドにそのまま突っ伏した。


 奏が来たって絶対に開けてなんかやらないんだから。私はそのまま眠ってしまったのだろうか。いつの間にか窓から見える外の世界は真っ暗になっていた。


 食事はナナが部屋まで運んでくれたけど全く食欲がなかった。そしてまた誰かが扉をノックする。奏とは顔を合わせたくない。紗栄子か華かな?そう思いながら誰何すいかすると意外にもバンちゃんであった。


「具合悪そうだから見て来て、って紗栄子たちに頼まれた。」

私は部屋に彼を招き入れる。ナナがしょくじと一緒にポットに入れて持って来てくれていたコーヒーを彼に出した。何もバンちゃんに頼まなくても。彼は苦笑を浮かべる。


「だよね。ただナデちゃんと喧嘩したのが原因なら彼には頼めないし、もし自分たちに言いたいことがあればすれ違った時に話したはずだから自分たちも適任でないだろうから、だって。⋯⋯消去法の結果だね。」


 彼は私が奏のメイドになったいきさつを知っていたようだった。それで私はリアム君たちが「勇者」で「魔王」の奏と命を賭けた決闘をするつもりであることを告げた。


「ぼくも聞いたよ。もしここが現実世界ならなんて時代錯誤なんだよって思うはずだけど、この世界ならおかしく聞こえないところが恐ろしいよね。」


 そうなんだ。普通の常識が常識じゃないんだ。私は奏が死んでから自分や奏の家族がどれだけ苦しんだのか話した。彼は相槌あいづちを打ちながらずっと耳を傾けてくれた。


 私は涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら話し続ける。


 私は分からない。マーヤさんは死んだものの異世界に転生している。それは神様と取り引きのあるトニー先生も確認している。確かにマーヤさんを奪われたことを恨むのはわかる。でもあの頃の私たちと比べたら絶望の度合いは軽いはずではないのか?私だってあの頃に奏が異世界に転生したことを知っていたらそこまで自分を責めたりしなかった。


 リアム君たちだって、奏に世界征服の意思なんてないことくらい、半年も同じ学校にいてどうして認めようとしないのだろうか?奏はそんな暇があったらゲームをしていたいどこにでもいる平凡な人間なんだ。命や権利を互いに脅かさないという契約で手を打てないのだろうか?


「ミッチー。君は優しいね。そして、責任感も強い。でもね、こ事態に至ったのは君の責任じゃない。だから君が背負しょいこむ必要はないんだよ。真綾、自分を責めたりしないで。お願いだから。」

 バンちゃんは私の両手を包み込みように握ると私に優しい目を向ける。え?なに、これ?


「ぼくは君が真綾ちゃんのことが好きだ。だからぼくが君の味方になるよ。君は君が正しいと思えることをするべきだ。ナデちゃんもリアム君たちもそれぞれがそれぞれの正義を持って戦おうとしている。だから真綾ちゃん。君がその戦いを良しとしないなら関わるべきじゃない。もし君が関わってどちらの命が失われてしまったとしたら君が傷つくことになる。ぼくも紗栄子や華も君をそんな目に遭わせたくはない。」


良かった。そう思うのは私だけじゃないんだね。


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