メイドに詰め寄られる【俺】の物語。

 ドアが勢いよく開かれる。

 俺と軍団長アレイスター、そして城代兼参謀長のドロシー。その部屋にいた三人の視線はそこに注がれる。真綾だ。彼女は俺を見据えると一直線にこちらに向かってくる。


 「ねえ。話し合いでなんとかならないの?」

真綾の言葉は問いというよりは悲痛な叫びだった。


 答えはNOだ。なぜなら「失敗」したのは俺たちだからだ。

「真綾さん、顔が真っ青よ。ソファにおかけなさいな。」

ドロシーが勧めると彼女はまるで落下するように座る。


「真綾さん。なぜ戦争は起こると思う?」

ドロシーの問いに真綾は答えられなかった。

「どちらか一方に勝算があるからよ。」


真綾は首を傾げる。

「これまで勇者たちの側には勝算がなかったわ。それだけ彼我ひがの戦力差は絶望的だったの。でも勇者たちはトニーの装備を得て、ジャスティンに魔法を鍛えられ、そして前王の魔力供給によって初めて勝算がついたの。だから彼らは旦那様に戦いを挑んできたのよ。旦那様の仰る『失敗』とはね、あの子たちに勝てるかもと思わせるような隙を作ってしまったことなのよ。」


「でも、話し合いはできないの?」

 うん。戦いたいのは俺じゃない。彼らだ。そして彼らが欲しいのは俺の力だから。それを渡すとおれの存在は消滅する。正確にはリアムの意識深層に取り込まれ、永遠の微睡まどろみの中で揺蕩たゆたうことになる。⋯⋯まてよ、ちょっとこれ魅力的だな。


「旦那様。」

アレイスターが咳払いしドロシーがこちらを睨みつける。いや、なんの努力もなしに金持ちイケメンかつ権力者の人生を追体験するのもちょっと悪くないかも。冗談はさておき結局俺の命を求めるからには同じものを彼らは賭けるしかないんだ。


「どうしても戦う必要があるの?」


 そう、これはリアムたちの意思の問題だけでは無いからだ。彼らが背負うのはアメリカの屋台骨を支える財閥と政府だからだ。自分の気持ちだけで降りられる勝負では無い。


「なぜアメリカは奏との戦いを望むの?」


 それは現在の世界秩序「アメリカの覇権による平和パックス・アメリカーナ」にとっての障害物だからだ。繰り返すが俺の持つ魔王ザムシャハークの特殊魔法は魔力の無い人間を幾らでも「鏖殺おうさつ」できるのだ。「虐殺」ではない。「鏖殺みなごろし」だ。


 たとえ彼らが地球を何度も焼き尽くせる戦略核で武装しようが、強力な空母打撃群を何セット持っていようが俺に傷一つつけられない。逆に俺がその気になればアメリカ軍を3日あれば「殲滅せんめつ」させられる。負傷者がいる「全滅」ではない。(一般に全軍の5割を喪失すると「全滅」とされるそうです。)一人残らず戦死者となる「殲滅」だ。「俺TUEEEE」なんてレベルはとうに超えているのだ。


 これが味方でなければ恐怖の対象でしかない。もし俺がテロリストや独裁者と手を組んだら?もしくは俺自身が世界征服を目指したら?

 

 そんな存在を果たして野放しにできるだろうか?日本の戸泉総理のように寝転がって腹を見せるか、合衆国のように魔力を持った勇者を送り込むしかない。

 彼らにとって幸いなのは魔力を持った勇者に対しては俺の「特殊魔法」は効かないからね。俺は真綾を落ち着かせようとなるべく穏やかに言ったつもりだった。でも彼女は目を見開いたまま泪をぽろぽろこぼしながら宣言した。


 「私⋯⋯戦えません。同級生同士で殺し合いなんて絶対にいやだもん。一人が死ねばその側には何十人もの家族や友人が辛い思いをするってことがあんたはわかってないんだ。死んだ方は大変だったかもしれない。でも、死なれた側だってどんだけ大変だったことか!」

それだけ言うと足ばやに部屋を去っていく。


 これはどうしたものか。

 

 

  


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