修学旅行で異世界の街を巡る【私】の物語。
魔都オデッサ。かつて奏とマーヤさんが過ごした街。人間と魔族が調和して暮らす街。エルフやドワーフを含む「妖精族」。吸血鬼や鬼たちを含む「魔人族」。竜人や狼人を含む「獣人族」。淫魔やアンデッドなど人の形をしていない「妖魔族」である。この4つのグループの代表が奏に仕える四天王を構成するんだ。魔族の中でも人間に近い姿や社会生活を営む者たちを「亜人」と呼んでいる。
今日はなぜか椿姫さんの引率で中央街区を案内されている。主に魔法の施設が集中している。修学旅行なので異なる世界を学ぶのが大切ということらしい。
「食生活ってどうなってんの?草食や肉食とかどうなってんの?互いに襲ったりとかしないのかな?」
濱ちゃんそういう質問って⋯⋯。しかし椿姫さんは
「なるほど。獣人たちも自分たちで家畜を養う者もいれば森で狩る者もいるぞ。人間と猿が異なるように獣人と動物もまた異なるからな。そして、この世界には肉のような実がなる作物もあるのでな。城ではそれを採用している。当然そのままでは肉らしくないので多少の加工は必要だがな。」
へえ。考えてみれば大豆から人工肉ができるんだから、そんな植物があってもおかしくはないか。みんな普通にスマホであちこちの写真撮ってるけどいいのかな?
「別に構いはせん。そちらの世界では民が知らぬだけで支配者層にとって異世界の存在などもはや常識だからな。」
私の隣には坂東君がいていろいろとエスコートしてくれている。まあ奏はこういうことはしないな。なんか昨日の恋話のせいで変に彼を意識してしまっている。
お昼をレストランでいただく。肉料理は結構美味しかった。これが例の「肉」というかいつもお屋敷で出される肉だと気付くのにそれほど時間はかからなかった。
みんなはこの後自由行動になるのだが、私は椿姫さんに呼び止められた。
「真綾。勇者側からの通告が昨夜届いた。恐らくは命を賭した決闘となろう。覚悟を決めておくように。」
覚悟って、どういうこと?
「今回、旦那様は勇者どもの命を絶っても止む無しとお考えだ。」
それはリアム君たちを殺してしまうということ?
「かつて、かの勇者は児戯に過ぎなかった。しかし、リュパートの手によって真の勇者になったのだ。旦那様は魔王として向き合わねばならぬのだ。そして、これまでのように手加減などできぬのだ。」
え、もしかして死んでしまう可能性があるということ?椿姫さんはうなずく。そんなの、いやだ。奏は力の「封印」をするだけ、って言っていたのに。死ぬの?
私の中であの時の記憶が蘇る。奏がダンプに跳ね飛ばされて命を失ったあの日。今でも鮮明に思い出すことができる。怖くて怖くて身体中の震えが止まらなかった。
悲しいよりも申し訳ない気持ちが強かった。自分が被害者の一人とどうしても思えず、生きる資格があるのかさえ疑問に思えるほど自分を責めたこともあった。
あとは自分を罰するかのように全てに打ち込んだ。そう疲れ果てて倒れるまで。そして、燃え尽きてしまった。一人の人が死ぬということはニュースで聞くような数字ではないんだ。
私は思わず座り込んでしまった。どうしたら良いのだろう。奏はわかっているのだろうか?一人の死によって苦しむのは本人だけではない。私は奏が死んで苦しんだし、奏のパパもママも琴音ちゃんもみんな苦しんでいた。
「ミッチー大丈夫?顔が真っ青だよ。」
バンちゃんは私が気にかかっていたのかわざわざ戻って様子を見に来てくれたんだ。
「みんなには先に行っててもらおうか?もし具合が悪ければ部屋まで送るけど。」
ありがとう。でも、大丈夫。私、やらなきゃならないことができたから。
少し震えてるけど、私の足は地面をしっかりととらえた。
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