決戦に向けて備える【賢者】の物語。
「決戦はこの地点でお願いします。」
ジャスティンが提示した場所を魔法で見せてもらう。この王都を見下ろす山脈を越えた隣国の領土内だそうだ。そこは荒凉とした砂漠の一歩手前の原野。西部劇なら風に煽られた
ジャスティンは女王の夫でもある。当然ながら自国内での戦いで国土や国民に大きな被害をもたらされるのを好まないのは言うまでもない。
「魔王の城を直接攻撃しなくてもいいのか?」
リアムが不思議そうに訊く。不思議なことにリアムは異世界に来るとあの刺々しい雰囲気が
ジャスティンが答える。
「ええ、わざわざ敵の罠の元へ出向く必要はないでしょう。それは
魔王を引き篭もりにさせず、こちらに呼びつけるための人質なのですから。」
しかし、魔王が人質を見捨てたらどうするんだ?彼と親しい友人はあちらにいるわけだし、戦わずにここから去るという方法もあるではないか?
「その心配はありませんよ、ノア。何しろ日本政府が奏の出国を許可したのは自国民を勇者との争いに巻き込まないことが条件ですから。彼にはそれを守らないという選択肢はありません。彼はかつて日本人でしたし責任を何よりも重んじる文化で育っています。アメリカ人ほどには合理的にも非情にもなれないでしょう。」
ジャスティンの皮肉に若干イラッとしたが争うほどのことでもない。
当の生徒たちは自分たちが「人質」とも知らず
でも今すべきことは目の前に来た決戦に備えることだ。
「とりあえず防御陣は堅いのを作ってやるからな。」
トニーが請け合う。今更ながら彼らが俺たちを裏切りかつて仲間であった魔王の味方をしないと信用できるのだろうか?
「そこは君たちが俺たちを信用することが魔王との決戦のための最低限の条件だからな。俺はこの世界に戻れたことでもはや奏におもねる必要はなくなった。そしてジャスティンはリュパートの娘婿だ。奏より君らに
そう、俺たちは勇者だがその基盤は極めて脆い。実家には経済的に支えられ、異世界の勇者たちには技術的に支えられ、対決さえ魔王の矜恃によっ実現できるのだ。
だが、勝たねばならない。それが俺たちの
「今、ジャスティンが魔王の城に使者を送った。決戦は3日後だ。明日にはここを発つ。準備しておくといい。」
リアムの言葉に俺の身体に震えが走る。恐怖も決意も緊張も全てが俺の身体を震わせるのだ。勝算があるのかリアム?リアムは不敵な笑みを浮かべる。
「そうだな。魔王の魔力を半減させることに成功しさえすれば勝つのは我々だ。」
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