修学旅行で枕投げ?な【俺】の物語。

「おーい、ナデちゃん!おるか?」


 ドアを開けるとそこには陰キャ四人衆と坂東氏の姿が。消灯時間は過ぎとるぞ。思わず修学旅行あるあるネタが口に出る。

「真面目か?」

ツッコミが入る。こういうボケツッコミ論を延々とやるのが陰キャである。なんか不都合でもあった?


「いや、修学旅行といえば『枕投げ』やろ?」

皆、自室から枕を持参していた。昭和か?今度は俺がツッコミを入れる。だいたい、8畳間に六人くらいで雑魚寝ざこねしていた時代はかなり昔だ。だから一部屋にみんなで投げ合うくらいの枕はあったがお前ら今回個室やんけ。それに殺傷能力の高い蕎麦殻そばがらの枕じゃなくて、羽毛ですよ羽毛。もし破れて「天使降臨」なんてやった日にゃ椿姫に叱られますし。それに「魔王城」で「天使降臨」はアカンでしょうが。


「ほら、やっぱり迷惑だよ。」

坂東氏が常識的な意見を述べた。まあとりあえず入ってくれ。

城主の個室はベッドルームと書斎兼リビングとに分かれている。隣はマーヤとの「愛の巣」だった夫婦のベッドルーム。反対側の隣は他の女性と愛を育む(子孫繁栄とも言う)ためのベッドルームだ。まあ俺はマーヤ一筋だったけど。


 「しかし目黒のお屋敷も凄いけど魔王城こっちはさらに凄いね。」

ロリさんはキョロキョロ見回しながら感心する。まあな。地下にはきちんと迷宮ダンジョンもあるからな。


 「こんな広い敷地をどうやって掃除すんの?」

サノちゃん、所帯じみた質問だな。それは妖精族の仕事だね。風魔法を使ったル●バみたいのもあるんだぜ。城の中の家事全般は妖精族の仕事で、椿姫はそのトップなんだ。だからこそ彼女は妖精女王ティターニアの称号を持つ四天王の一員なんですよ。せっかくだし一杯やる?


 俺はメイドたちを呼んで秘薬アルコールを振る舞うことにした。決してルビは読まないように。担任は王都に行ったし、そこな坂東副会長も軽い度数のカクテルなら大目に見てくれるはずだ。


 そして陰キャたちに秘薬を投入すると、なんということでしょう。みんな陽気になって来たではありませんか。ただ若干「絡み●」系なので大人になったら気をつけてください。


「ナデちゃん。真綾さんとはどうなっているんですか?」

濱ちゃん、顔の毛細血管がだいぶ活性化しているようだね。どうもこうも「つつがなく」暮らしておりますが、何か?


「つつがなくぅ?ご主人様なんだから股間の『大砲』でガバーッと行っちゃえばいいんじゃね?」

「ナデちゃん多分ピストルー、しかもデリンジャー。」

んー。こいつら秘薬入ると煽ってくんなぁ。だからそんなんじゃ無いって。


「じゃあ僕が告白しても良いんですか?」

ふと坂東氏がグラスを置いてこちらを見た。笑ってはいたがその視線の奥底には挑戦的なものを感じる。俺は一瞬、頭の中が真っ白になった。そう、こいつの持つ「人間性」は俺より上だと思うからだ。


俺が黙り込んでしまうと坂東氏は目を一瞬伏せると笑った。

「すみません。冗談が過ぎました。秘薬のせいですね。高山君の反応を見ると分かりますよ。」

坂東氏につられて皆笑った。


「で、どうして真綾さんは高山君のメイドさんなんですか?以前彼女に尋ねた時、はぐらかされてしまったんですよ。」

ナデちゃんでいいよ。そう言ってから俺はかいつまんで真綾との経緯を話をした。俺が転生者であることはここにいる全員が初耳だったはずだ。

 まあファンタジーな体験をしすぎているためか案外あっさりと受け容れているようだ。


「じゃあナデちゃんにとって真綾さんはどんな存在ですか?ただの『部下』ですか?それとも『大切な存在』なんですか?」

バンちゃんは痛いところを突いてくる。


 俺は遠慮しているつもりだったのだ。心の底から愛していたマーヤと俺の事情に巻き込まれてメイドになってしまった真綾に。


 26時を回ったところで「枕投げ」はお開きになった。明日は女子たちと城下へ観光に行くという。バンちゃんは去り際に俺に耳打ちをした。


「僕、真綾さんのこと諦めていませんから。」



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