修学旅行で恋話を咲かせる【私】の物語。

「この部屋ってなんだか落ち着くねぇ。」

夜になって紗栄子と華が私が泊まる部屋、つまりマーヤさんの部屋に遊びに来た。ゲストルームは豪華すぎてなんだか落ち着かないみたい。


 私たちはハワイには行き損ねたものの、せっかくだからこちらの世界を楽しむことに決めたんだ。お城も大きいし、街もいろいろと面白いと思うし、海辺に別荘もあるらしいのでそこでのんびりしてもいい。


「修学旅行と言えば、やっぱり恋話こいばなよねぇ。」

はい?ずいぶん唐突にぶっ込んで来たね。

「ねえ、真綾と奏って最近良いカンジじゃん。正直どこまで進んでんの?」


はい?進むも何も始まってないんですけど。

「始まってないことはないじゃん。人間同士としての関係は確実に深まっているんだからさ。ようはどこを『きっかけ』にするかじゃね?」


 私は思わずうつむいてしまった。同じ屋根の下で生活して学校も一緒で。奏のことをよく理解しているとは言えないけど彼のありのままに「慣れて」来たのは事実だ。でもそれは恋じゃないと思う。


「真綾は奏のそういうところは嫌なの?」

嫌ではないよ。だって、コーデルさんや椿姫さんの言うことは聞くしね。渋々だけど。だから常識からズレっぱなしになることはないな。


そして、紗栄子が急に真面目な顔になる。

「実はさ。バンちゃんがさ、真綾みたいな子が好みのタイプらしいんだ。修学旅行の間に告白する気みたいだし。」


え!?ええええええええええええええーーっ。

 私は脳天まで一気に血が上るのを感じた。そ、そりゃ坂東君は良い人だけどね。そんな風に見られているなんて予想もしてなかった。


「というか丸わかりだったじゃん。バンちゃんハロウィンの時だってめちゃくちゃ頑張ってアピってたし。」

華がうんうんとうなずきながら追撃してくる。


「あんた自覚ないかもだけど結構な美少女だからね。転校直後は校内でかなり話題だったんだから。⋯⋯だから告白されたらハッキリすんじゃね?奏への気持ちが恋かどうか。」


「でも奏は真綾のことめっちゃ大事にしてるよね。真綾を見る眼差しがすでに愛が溢れてるってカンジだし。」


あー、ちなみにそれは私じゃないよ。私はただの面影フィルターだから。

「誰の?」

 私は黙って壁に飾られた肖像画を指差した。そこには奏とマーヤの姿が描かれていた。

「これって真綾と奏じゃん!?」

私は首を横に振った。それは私じゃない。奏の恋人だった人だよ。名前はマーヤさん。


「どういうこと?」

まあここまで来てしまったのだから奏と私のこと、そして奏とマーヤのこと、さらにマーヤと私のことを打ち明けることにしたんだ。


「そっかぁ。奏もぼさーっとした顔してるけどずいぶん苦労したんだねぇ。」

うん。否定はしない。


「じゃあジャスティン先輩もトニ先も元は奏の仲間だったんだ?奏だけ少し残念なカンジだねぇ。」

うん。否定はしない。


「でも奏って全然そんな話をしなかったよね?」

うん。そんな話したらイキリまくった痛すぎる中二病患者と思われるだけ、って自覚してるからね。


 さて、私の恋話こいばなは以上なんですが、お次は紗栄子かな?華かな?

「いや、もう夜も遅いし、今夜はこれにて⋯⋯。」

逃げかける二人。

「あれ?ドアが開かない。」

残念。その扉は私の許可が無いと開かないのです。うふふ、食い逃げは許しませんよ〜。


 







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