王都にやって来た【勇者】の物語。

 異世界の王都は落ち着いた佇まいであった。中世ヨーロッパに似ているが何より清潔感が溢れているところはニューヨークやロンドンよりも東京に近いかも知れない。


「そうです。私の曽祖父ひいおじい様は異世界の街、東京の生まれと聞き及んでおります。」

 ジャスティンの妻、つまりリュパートの娘であるリリアーナ女王陛下は気高く美しい女性であった。今夜は我々の歓迎会ということで正装をなさっていた。


 なるほど、水が豊富なところはよく似ていると言えよう。これほど治水が行き届いた国土ではさぞかし他の国から狙われよう。


「でも、国土の西の高い山脈が我が国に恵みの雨と防御を与えてくださっているのですわ。そして国の南にある辺境伯領。そこが我が国の守備の要を果たしてくれているのです。」


 名目上、我々は他の大陸の魔王を倒しに行く旅の途上で立ち寄ったことになっているのだ。さすがにその辺境伯領に戦いを挑むとは言いがたい。


 歓待パーティーは深夜にまで及ぶ。少々疲れたか。

「リリア、客人をもてなすのも良いが君は国政という重責を担う身。そろそろ自重しないとね。」

 トニーに諫められようやくお開きになった。


 リュパートは変装して自室に閉じこもっている。彼は娘に会いたいとは思わないのだろうか。やがて人質たちが王都に着いたという報告も受ける。ここまでは万事計画通りと言えるだろう。


 あとはやつを倒し、その力をもらい受けるだけだ。俺は隣のベッドで横たわるマリーに尋ねる。ぼくにそれができるだろうかと。


「あなたならきっと大丈夫ですわ。私は信じていますから。」

マリーは静かに微笑むと確信を込めて言ってくれた。そして、ぼくはその言葉でほっとしたのかいつしか眠りに落ちていた。


 目を覚ますとマリーはすでに身支度を整えていた。決戦地は山脈を越えた隣国だ。そこにはかつて魔獣が跋扈ばっこしたという砂漠に近い荒地があると言うのだ。そこならば誰にも邪魔されずに戦えるだろう。


 今回の戦いはジャスティンは参加しない。我々、そしてリュパートである。魔王はいったいどんな布陣で我々を迎え討つつもりだろうか?


 約束の時は明日である。我々はリュパートの操る飛空艇で王都を発った。ノアは不機嫌そうに尋ねる。


「リアム、一つ聞くが、魔王は来ると思うか?」

来るだろう。やつは来る。


「思うんだが、魔王の矜恃プライドに頼る俺たちってなんなのだろうな?」

何が言いたい?ノアは気難しそうな顔で言う。


「リアム。俺は嫌な予感がするんだ。俺たちは善悪の対立こそが世界の摂理だと教わって来た。しかし、誰が俺たちを善と定め、誰が貴奴を悪と定めたのか?俺は幼い頃物語を読みながらふと思ったことがある。しばらく気にも留めなかったのだが。もちろん『勝てば官軍』というのは真理だとは思う。でも⋯⋯。」


俺はノアの言葉を遮る。

「良いことを教えてやる。一番の強者のわがままを我々は正義と呼ぶ。何度も言うが善悪は対立しない。対立するのは損得だけだ。勝者を正義と呼び敗者を悪と呼ぶ。これこそが真理だ。自分が善であることを証明するのは己が強さだけだ。俺たちの家は政治屋じゃない。商人なんだ。」


 これは合衆国ステイツが建国以来ずっとやってきたことだ。そしてこれからもそうするだろう。だからこそ、ぼくは勝たなければならないのだ。

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