異世界に迷い込んだ【私】の物語。

 龍馬ドラゴンホースく馬車に揺られ、魔都オデッサに着く頃には夜はすっかり明けていた。

 

 私がこの街に来たのは初めてだけど、この街のことは良く知っているんだ。

それはマーヤの記憶の中でも最も幸せな時間がこの街にあったから。


 奏と手を繋いだり腕を組んだりして街のこの入り口にある広場の青空市場マルシェで買い物したり、デートしていた。あの手の温もり、優しい眼差し、脳天まで溢れそうな甘酸っぱい幸せな気持ち。彼の顔が彼女の脳内でだいぶイケメン補正されていた。あの幸せな日々。


 華も紗栄子も周りを珍しそうに見つめる。まだ朝早いのに街はたくさんの魔人や亜人、獣人が行き交っている。

「ああ、あのお店、ハロウィンの時、屋台出してたよね?」

良く覚えるなぁ。そう言ったら二人がキョトンとした顔をする。

「今、なんて言ったの?」


「ごめん。みんなに『言語理解魔法』をかけてなかったわ。」

奏がみんなにも魔法をかける。


 この街は日本のような商店街は存在しない。広場の周囲は大きなお店があるけど店と住居が一体化してる店はない。職人さんの工房もそうだ。だいたいは屋台や露店を街にいくつかある広場で開くことが多いのだ。


 後でみんなで遊びに行こうね。馬車はメインストリートを登って行く。結構な登り坂だ。だが歩道は「魔法で動く歩道」になってるから苦にはならないんだ。遠くに城門が見える。


 「電線とか電信柱とかないね?」

ニッシーの問いに奏は

「なんでも魔法で済ます世界だからね。ちなみに電気で動く機器もあるよ。」

と答えていた。こちらの世界から何人も勇者が来ている世界だから便利なものは割と広まるんだ。

「だからちゃんとトイレも水洗だよ。」


 クラスメートには奏の魔法は何度も体験しているので、多少の魔法を見ても驚くことはない。今回の「ファンタジー世界」にも割と早く順応しているみたいだ。



 城に着くとすでにこちらに来ていた椿姫さんや、軍団長のアレイスターさん、城代のドロシーさんが出迎えてくれた。


「出迎えご苦労さん。この度、俺自ら勇者を迎撃することになった。みんな、よろしく頼むよ。そして、ゲストのおもてなしもよろしく。」


 あの⋯⋯。私は椿姫さんに手伝った方がいいか尋ねた。椿姫さんは笑って私の頭を撫でる。

「真面目だな、真綾は。今回は元世界むこうの屋敷では無いのだからゲストでいればいい。」

そう言ってから私の滞在する個室を案内してくれた。飾りっ気の無いシンプルな部屋。丁寧な刺繍が施されたカーテンとベッドカバー。マホガニー材に似た木で誂えた素敵な調度品。私にとっては凄く馴染み深くて、懐かしい部屋。


「あなたも良く知っているだろう。ここはマーヤ様のお部屋だ。」

そう。私の夢に出てくる部屋だ。これは奏とマーヤの思い出の場所でもある。でもこういうことって奏が嫌がるんじゃ?


「そんなことはない。旦那様にはきちんと許可おゆるしをいただいている。

そのうち勇者側から決闘の申し込みが来るはずだ。それまでここで過ごすもよし、街を散策するもよし。クラスメートたちを案内して差し上げるといい。」


そうだ。せっかくの修学旅行。行先が異世界になってしまったけど楽しまないとね。


 

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