異世界に不時着する魔王【俺】の物語。

 どうしたものか?俺が執事セバスチャンの顔を見る。滑走路になりそうな場所はないか?しかも飛行機の管制システムもないぞ。


「アダマル海岸はいかがでしょう?遠浅ですし、干潮の時間帯なら湿った砂浜が広がっていますからなんとかなるでしょう。」

 これだけの乗員乗客を移動させるバスも無いし、洋上に不時着でもしたら救助船も無い。だからあまりとんでもないところに不時着させるわけにはいかないのだ。


「それよりも旦那様の土属性魔法を使われた方が早いでしょう。準備は私めにお任せを。」

 セバスチャンが瞬間移動で消える。やつは風魔法を得意とする吸血鬼ヴァンパイア真祖しんその家柄だ。なんとかするだろう。


 俺は探査魔法で得た情報から機長をナビゲートする。機長もたとえ半信半疑でも従う他はない。乗客には機器の故障と告げ、着陸を試みるとアナウンスした。

混乱する機内。しかし、何度も繰り返し説明する。


 やがて予定の海岸が見えてくる。CAの指示に従ってみんな着席してベルトをつける。機長さんはベテランなのか見事に着陸を成功させた。重力魔法でブレーキを補助する必要すらない素晴らしい手腕だった。


 このアダマル海岸は俺の領地にある。魔物や魔獣に襲われる心配はないが、スーツケースのような荷物の上げ下ろしも自分たちでやらねばならない。しかも生徒じゃない人たちも乗っている。


 外国人なのだろうか。機長にここはどこだと詰め寄る者もいる。機長の方が聞きたいだろう。勇者たちもこの異世界にいるのは間違いない。というのも異世界に召喚された時点で無線によって俺の指示に従うように命じられたそうだ。


 「おい、高山。ここはどこなんだ?」

 担任の渡邉先生が不安を押し殺しながら尋ねる。ここは異世界ですと答えるとしばらく放心していたが、

「俺の嫁になってくれそうなエルフはいるかな?」

と気持ちの悪い笑みを浮かべた。


 俺は先生の適応能力に思わず感心しそうになった。うん、エルフも裸足で逃げ出すわ。


すると上空から魔法で飛ぶ船がやってきた。

「あれ、航空機は無いって言ってなかった?」

 真綾が俺をジト目で見る。エンジンで飛ぶ航空「機」はないぞ。魔力で飛ぶ飛空艇はあるが、そんなもの持てるのはこの国じゃ王家ぐらいだ。まあ俺たちも小型のやつは持っていた。もちろんトニーが作ったんだけどな。ん、王家?


 飛空艇から降りて来たのはジャスティンだった。皆、見知った「先輩」の顔を見て安堵の息を漏らした。一方、セバスチャンが手配した龍馬ドラゴンホースの馬車が何台もやってくる。それを御するのは厳ついオーガのお兄さんである。ちなみにオーガはオークの高位種族だ。当然のごとく皆恐怖で顔を引きつらせる。


「私は3Eのジャスティン・ラウです。私はこの世界で宮廷魔導師をしています。異世界の皆様、王都へご案内しましょう。そこまでの安全と王都での滞在は私が保証いたします。」

 ジャスティンの呼びかけに皆、自分のスーツケースと手荷物を取ると飛空艇へと乗り込み始めた。


「旦那!コーデル様のお言いつけで迎えに参りやした。参りましょう。」

オーガのお兄さんが胸をたたく。そうだな。俺と一緒に行くやつなんているか?


 俺のそばに残っていたのは濱ちゃんやニッシーたちのいつもつるんでいる陰キャたち。紗栄子と華と坂東氏、それだけだった。


「あんたの人望を考えたら妥当な線ね。」

真綾、痛いところを突かないで。


「つまり、ジャスティン君にまんまと人質を取られたわけね。もう、さすがとしか言いようが無いわね。」

うん。そうだね。担任も飛行機のパイロットもみんな向こうか。


修学旅行が思わぬ形で異世界旅行になってしまった。


「なあ、ナデちゃん。もしかして俺にチート能力ついたかな?ハーレム、ハーレムが俺をよんでいる?」

濱ちゃんがワクテカ顔で尋ねたので俺は首を横に振る。


「残念ですが皆様は異世界『転生』ではなく『転移』でございます。よってボーナスはございません。」

セバスチャンが斬ってすてる。


そんながっかりすんなよ。城で美味いものでも食ってさ。ゲームでも⋯⋯。


 しまった!この世界はゲームがねえじゃん。くっそリュパートめ!ぜってえボコる!思いの外戦闘意欲が沸いた俺であった。


 たs

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