ようこそ魔界ハロウィンへ。メイドな【私】がお迎えします。
可愛い動物のウェブ広告が功を奏したのか、初日から客入りは上々、今回はマリコさんの希望もあって植え込みや樹木を保護する結界が張られたみたい。納涼祭の時は鉢植えの盗難もあったみたい。魔王の屋敷でドロボーするとかどんだけ怖いもの知らずなの、って感じだ。
相変わらず奏は主催者テントで商店主さんたちにもみくちゃにされている。今回は与党の都議さんが手下の目黒区議さん二人を引き連れて「挨拶」させろとやって来た。開会の挨拶は紗栄子がすることになっていたので奏が断ると怒りだす。それを商店主さんたちがまあまあと酒を飲ませて「足代」を握らせて追い払った。ちなみに奏の金だけどね。
「まあこんなのお互いに茶番なんだよね。」
くそ。ちょっとオッチャンたちがカッコいいかもとか思ってしまった。オッチャンたちのセカイの方がよほど「魔界」だよ!と思ったのは私だけ?
コスプレ客には特典がつくため、敷地内にはコスプレのお客様でごったがえす。 今度は例の都知事がやって来る。よりによって「ふーじこちゃーん」のコスプレで。仕上がりは「横浜のメリーさん」以外の何者でもないけどね。奏が憮然とした表情になる。
「うわぁ。あのクソババアの身体を60兆分割して全て違う異世界に送り込んでやりてぇ。」
奏、口に出てるよ。オッチャンたちも奏の憤りを察知したのか、
「まあま若旦那も落ち着いて。まずは一献。」
と酒を飲ませ始める。
「大丈夫なの?」
そこに顔を出した坂東君がびっくりする。そりゃそうなるよね。
「大丈夫大丈夫。兄ちゃん、ここだけの話だけどな、このお屋敷は日本にあって日本じゃねぇのよ。大使館扱いでなぁ。だから治外法権なんだぜ。だから若旦那はここでなにやっても逮捕はされんのよ。」
オッチャン、詳しいな。
ただいつもより飲むペースが早く完全に酔いが回ってしまった。
「ちょっと休んでくる。」
ふらつく奏を坂東君が肩を貸してくれた。
「悪いな⋯⋯健介⋯⋯。」
奏、人違い⋯⋯というか酔って異世界にいる気分にでもなってるのだろうか。
「高山君とおじさんたち、まるで全員が同世代みたいだね。高山君面白すぎるな。」
うーん、奏は本来我慢強くて、みんなにわがままに根気よく付き合うタイプなんだけどね。今回はやめてくれと予め通知したはずのコスプレを敢えてやってきたことに我慢できなかったのね。私はすっかり酔い潰された奏の鼻を弄ってみた。
「お疲れ様。彼、大丈夫?」
高校のブースに戻って来た私に坂東君がジュースを渡す。うん、途中から自分で自分に「セーブモード」かけてたみたいだから大丈夫だよ。
「そう。良く分からないけど、三橋さんがそう言うなら。」
これまで接してきて減点ポイントが全くない坂東君に対する私の評価は高い。
坂東君は人懐こそうな笑顔で訊く。
「そう言えば三橋さんはどうして高山君のメイドをやってるの?」
私のことはミッチーで良いよ。うーん。それは「禁則事項」なんだな。そう言うと
「じゃあ無理して聞かない。それに僕も『バンちゃん』でいいよ。」
とあっさり引き下がる。
奏も話相手としては面白いんだけど、だんだん調子に乗ってボケまくるからツッコミを入れる私が結構消耗する。バンちゃんはそう言うとこないから楽なんだよね。
「あれ、奏は?」
エリスさんが奏を探しに来た。自室で酔って寝てると伝えると
「やだ、まだ陽が高いのに。ちょっと起こしてくる。」
と行ってしまう。
その内、奏が大きなあくびを連発しながら降りてきた。
「エリスに健介直伝の酔い覚まし魔法をかけられた⋯⋯。酒飲んだ意味がねぇ。」
ぼやくなぼやくな。仕事しなくちゃ、旦那様なんだから。
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