地元商店街に凸られる【俺】の物語。ハロウィンがしたい?

 少し時間を巻き戻して9月も上旬の頃。和館にまた地元商店街の経営者たちが大挙して押し寄せてきた。うちの使用人スタッフたちも手馴れたものでなぜか昼間から酒とさかなを提供していた。大丈夫?昼から飲んで。


「今日は定休日ですから。」

あ、そう。ちなみに奥様方は洋館のサロンでお茶会だそうである。間違いなく「魔窟」と化しているはずだ。


 で、今日はなんの御用向きですかな?

商店街のオッチャンたちは夏祭り、文化祭を経てすっかり俺との距離感を0にしていた。

「実はね若旦那。今年のハロウィンなんですけど、また良い企画はなしを持ってきたんですよ。」


 使用人スタッフが俺のことを旦那様と呼ぶので彼らの間にもすっかり「若旦那」で定着してしまっている。『良い』企画って言うけど皆さん、どうせスポンサーは私なんでしょ?まあ、別にお金を貯めたいわけじゃないからいいんだけどね。


 どうにも納涼祭の「異世界夜祭」がすこぶる好評だったので今回も、ということらしいが同じことを何度もやるとお客さんに飽きられると思うけど。ただ、この懸念については彼らもすでに腹案があったようだ。


 「そこなんです。それで今回のテーマは『魔界』で行きたいんですよ。なんと言ってもハロウィンですからねぇ。つまりもう少しモンスター寄りなお知り合いをご紹介いただきたいんですよ。会場と合わせてお願いできませんかね?」


 あほかいな。亜人や魔人は人間に近い知能レベルだからこそ無害なのである。肉食の魔獣モンスターなんか連れて来たら危険すぎる。彼らはなるほど、となったものの、

「『肉食』がいるなら『草食』もいるんじゃないですかね?」

と食い下がる。


 居るよ。厳密には少しこっちの世界とは違うけどね。でもこの世界と同じで野生動物と同じなんだよね。保護対象なので無闇に捕まえたりしてはいけない。実際、異世界アストリアでも毛皮やら愛玩用に密猟される事件ケースが後をたたないんだよな。


「ほら、子どもたちにも『どうぶつ』のなんちゃらってゲームが人気じゃないですか。だから絶対ウケるはずなんですって!魔界の生き物とハロウィンの仮装、間違いない!」


 あのね、こっちに連れてくるにも餌やら施設やらノウハウが必要なんだよねぇ。


 と、ここまで説明すれば諦めるだろうと思っていたが、どうしてもと食い下がる。だから、専門家が必要なのっ!着ぐるみじゃないんだから。


⋯⋯⋯専門家?


 俺はふと思い出した。現在異世界アストリアで魔獣の保護活動をしているやつと言えば。


「健介さんとエリスさんにお願いしたら?」

マーヤの記憶で二人のことを知っている真綾が提案する。


俺がエリスを紹介してやると話はとんとん拍子で進んで行ったようだ。


ただ、こっちは忙しいし、マリコが庭を荒らした人間を〆ると息巻くし、経費は千万円単位で飛ぶし、地域貢献も楽ではないのだ。




 ただ今回は準備や設営に中間テスト明けの半日だけだが生徒会が協力してくれたのだ。これが紗栄子会長の初仕事、ということになる。


 特に副会長の坂東君の働きっぷりは素晴らしい。もし彼が魔族だったらうちの執事に欲しいくらいだ。などと言ったらさぞかし「イキってる」と言われそうなので決して口にはしないが、あのセバスチャンでさえ彼に関しては簡単に方針を示すサジェスチョンだけで仕事を任せてしまうくらいだ。


 生徒会の手伝いを引き受けた真綾が彼と屋敷スタッフの繋ぎ役を買って出ていた。


 「奏!」

そこに現れたのはエリスだ。彼女が今回の企画のキーマンと言って過言ではない。彼女が連れてきたのは巨大な猫だった。ね⋯⋯ねこバ、とまで言いかけてエリスに口を塞がれた。


「ダメだよ奏、それ以上言ってはダメ!この子は『トラねこ』よ。体内に収納魔法による空間を持った魔獣よ。」

『トラックねこ』なのね⋯⋯。そこから出てきたのは⋯⋯。


 


 


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