選挙結果が気になる【私】の物語。

 ついに紗栄子にとっての運命の日が訪れた。


 体育祭の代休明けの日。昼休みと放課後、生徒会役員会選挙の投票が行われたんだ。投票場所は学年ごとに決まっていて、生徒たちはそこに用意されたタブレット端末で生徒会のサイトの選挙ページから投票する。自分の端末からは投票できない仕組みだ。


 生徒は全て個別のアカウントを持っているので、ログインして投票用アプリで投票するのだ。だから投票時間が締め切られるとすぐに結果が判明する。ちなみに投票すると購買やカフェテリアで1ポイント一円で使えるポイントが100ポイントもつくので投票率はかなり高い。


 今日は選挙のため6限はない。それで投票締め切り4時25分。そしてわずか5分後の4時30分には当選者の発表がある。


 その発表は体育館で行われる。そこに候補者も選挙スタッフをした生徒も全員集められるのだ。発表するのは選挙管理委員会。3年生のエルダーにとってこれが最後の生徒会行事になる。


「発表します。市井紗栄子、坂東成二に561票。河田七瀬、倉林大翔、546票。

投票総数1107票。よって当選は市井坂東ペア。」

その後、プロジェクターで結果画面がスクリーンに投影される。

「おめでとう。新会長は市井紗栄子さんです。」


「僅差だな。」

奏が呟いた。画面をボーッとした顔で見ている紗栄子。華が紗栄子の腕を揺する。

「紗栄子、おめでとう。」

みんなに祝福されてようやく我に帰ったようだ。


「あ、ありがとうございます。」

紗栄子が目を潤ませながらお辞儀する。誰かが拍手するとその輪が広がった。


「皆さん、選挙戦お疲れ様でした。」

羽間はざま会長が皆を労う。

「では、明日生徒総会がありますのでその時に認証式と新会長の挨拶があります。しばらくは業務の引き継ぎもありますんでよろしくお願いします。では、打ち上げにしましょう。」


 テーブルには2年生のエルダーや三人の生徒会顧問の教師、役員たちが用意したジュースやお菓子が並べられている。勝者も敗者もここで一緒に打ち上げをして恨みっこ無しにするのがこの学校の伝統なのだそうだ。


 負けた方は居心地悪いこと極まりないが、「勝者は勝ちに奢らず敗者は負けに卑屈にならず」ということを学んで欲しいのだという。落選に涙を零す対立候補者の様子を眺めながらの打ち上げは、さすがにこちらも居心地悪い。

 

 ちなみに「優秀生徒エルダー」の改選は職員会議で教職員のみによって行うそうで、2年生と1年生から10人ずつ指名されるそうである。


 そして、同時期に決まるのが委員会。1年生は修学旅行委員会、2年生は卒アル委員会が決まる。通常の委員会は⋯⋯そっちはいいや。


 選挙が終わると修学旅行が来月に控えている。私たちが編入する前にすでに行先は決まっていて今年はハワイなのだ。家族とグアムは旅行したことがあるけどハワイは初めてだ。ワクワクするね?


「まだ行けるとは限らんぞ。何しろ日本政府との交渉が終わってないから。」

奏が難しそうな顔をする。まあリアム君たちのおかげで受け入れ国側のOKは出てるけど出国側の日本政府が渋い顔をしているらしい。ちょっと、私超楽しみにしてるんですけど。私の迫力に気圧けおされたのか奏は苦笑いを浮かべる。

「まあセバがなんとかするだろ。」


 いつも執事に丸投げかい。とは言え、セバスチャンことコーデルさんが率いる執事の皆さんは優秀なのでそっちの方が安心なんですけどね。

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