豹変した勇者に驚く【俺】の物語。

「2D高山、美術準備室へ。」

校内放送でトニ先が俺をお呼び出しする。クラスの女子生徒の視線が刺さるようだ。羨ましいか?なら替わってくれ、そう言いたい。管理棟行くのめんどくさいんだよな。

「なんだろ?トニーさんの用事って。」

真綾が当然の如くついてくる。


 美術準備室の奥にあるトニーの秘密の工房のさらに奥のドアを開けると、そこはカフェテリア3階、つまり勇者たちのVIPルームへとつながっていた。まあ、この方が行き来は楽だわな。ちなみに「どこでもドア」というよりは召喚魔法の応用で定点間を召喚術で結んだワープゲートという方が正しい。うちの屋敷も異世界と同じ方式でつながっていて、配下の魔族はそこを通って通勤している。


「久しぶりだな、魔王。」

リアムが相変わらず上から声をかけてくる。

 魔力量がけた外れに増えているな、それが第一印象だった。夏休み前とはまるで別人のオーラだ。顔つきが明らかに違う。ひと夏の経験で童貞を棄てた少年の比ではない。俺は思わず口に出かかった軽口を慌てて飲み込んだ。


 いったい何があったんだ?俺はステラの顔を覗ったが明らかに萎縮している。クロエは心底心酔しんすい仕切った表情を浮かべ、ノアは何かじっと耐えているかのように腕を組み、目を瞑っている。


「驚いたかね?勇者の覚醒ぶりに。」

そこに現れたのは事もあろうにリュパートだったのだ。俺はその顔を見て思わず叫びそうになるのをなんとか堪えた。俺の心は一気に怒りで沸騰し、頭に血が上る。そして、頭のもう半分ではすでに攻撃態勢に入るための術式を構築し始めた。


 ああ、確かに驚いたよ。だが、あんたがここで生きているという方がよほど驚きだがな。


 正直に言えば俺は驚きと怒りで頭の中が真っ白になっていたのだ。死んだんじゃなかったのかよ?俺はトニーに問う。しかし、答えたのはリュパートだった。


「死んだよ。そしてこの地球いせかいへ転生したと言うわけだ。」

そうか、そいつは良かった。それならアストリアでの立場は全く関係ないということだ。俺はやつにぶち込むための魔弾を放とうと手を差し伸べる。


転送門リーヴル

リュパートは即座に転送魔法陣を展開する。

「止めろ、奏!」

トニーが俺を制する。

「お前の放つ魔弾が校内に転送とばされたら怪我人、いや死人が出るぞ!」

俺はやっとそこで我に帰った。


 トニー、お前はやつがここに来ていたことを知っていたのか?

「薄々勘付いてはいたが、実際に会ったのはお前がジャスティンとやり合った後だ。」


リュパートは笑みを浮かべる。まるで獲物を目の前にした猟犬のように。

「そう、俺は転生したんだ。魔王を討伐するための勇者のパーティに加わるためにな。」


 つまりジャスティンも一枚噛んでるわけか?

「そうだな。術式に関してはずいぶんと助けてもらったよ。義理の息子としては申し分ない働きだな。」


 しかし、ここで戦いを始めればこの学校どころか東京の半分は破壊されるだろう。それくらいの魔力量が今この狭い空間に渦巻いている。


 これまでリアムたちにはある意味で「同情と共感シンパシー」を感じていた。だからあまり傷つけたくはなかった。できれば「ゴッコ遊び」の時点で俺を倒すのを諦めて欲しかった。


 ただ、ここではっきりと彼らは敵になった。踏み越えてはいけない一線を彼らは超えたのだ。


「決戦は『修学旅行』の時につける。少なくとも東京から離れるからな。」

そこはトニーたちも考えてくれてのことだろう。


「私はきみに最高のラストシーンを提供プレゼントするだろう。」

 すまん。正直言ってどっちが勇者でどっちが魔王だかわからんようになって来てるな。


「君子豹変す。」これは良い意味でも悪い意味でも使われる言葉だ。そして、勇者たちの今の様子をまさに言い当ている。



 

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