体育祭でリレーを走るメイド【私】の物語。

 体育祭を催す陸上競技場へ向かう車の中で私はずっと泣いていた。


 私は怖かったのだ。目の前で2度も奏が死ぬのを見てしまうのかもしれないという恐れに。私の膝は打ち震え、何もできなかったのだ。


 「どうやって勝ったのか、真綾にだけ教えてやるよ。」

奏は私の頭を撫でながら言った。


 奏はすでに人民解放軍の核ミサイルを搭載した原子力潜水艦を奪っていたのだ。もちろん、それがジャスティン君をこちらの世界に呼び込む原因にもなったんだけど。

それを決戦の前にはすでにアメリカ東海岸に配備していたのだ。そして、戦う前には中南海の名のもとにホワイトハウスに対して核攻撃の予告をしていたのだ。


 それはニューヨークの自由の女神像、そしてボストンだった。


 大統領は慌てて電話ホットラインをつなぐが国家主席もすでにパニックだった。主席に対しても奏はジャスティンの攻撃を止めなければ中南海の名のもとにアメリカ東海岸を飽和核攻撃核ミサイル全弾ぶちこむするだろうと警告していたのだ。


 そして、最後のあの3分間で返答を要求したのだ。


 面子のために原潜を奪われたことを対外的に一切認めていなかった中南海は奏に屈服せざるを得ななかったのだ。まさに「魔王」として王道のやり口だったのだ。もっとも奏に対してますます恨みを募らすだろうとは言っていたけど。


「このことは絶対にジャスティンには言うなよ。絶対だぞ。」

 奏は念を押す。はいはい、「押すな、押すな」ってやつね。あとでジャスティン君に私から伝えたらいいのね。これは後日だけど、それをジャスティン君に伝えたら

「まさしく魔王だなそれは。」

と私と同じ反応リアクション


 ジャスティン君の解説では自由と民主主義の象徴である自由の女神像に核兵器をぶちこんだら「真珠湾」なんぞ目じゃないくらいアメリカ市民の怒りが沸騰しただろうということだった。なるほどそういうことかぁ。


 そして奏が指示したもう一つの攻撃先がボストンだったことを知るとにやりとした。そこには国家主席の一人娘が留学している大学があるんだそうだ。あ、お前の娘なぞいつでも……やつか。

「多分、ぼくの家族が人質に取られていることを知ってたんだろうな。その意趣返しじゃないかな。」

 奏に負けたのにジャスティン君の顔はなぜか晴れ晴れとしていた。これで奏と仲直りできるんですよね?そう尋ねると彼は首を横に振った。

「いや、これで中南海と縁が切れただけのこと。やつらのは相応の報いを与えてからまた改めて挑戦することにするよ。ま、彼はぼくにとっては『好敵手ライバル』だからね。」

 いやいや命のやりとりすんのはライバルじゃなくて完全に敵ですがな。


 なんとか体育祭はお昼にはついて、午後の部に間に合った。奏は無事にパン喰い競争で激辛クリームパンを選び完食&悶絶パフォーマンスをやり切った。

 

 私も最後のリレーで第三走者としてまずまずの結果(ようは順位キープね)を残すことができた。クラスの結果は学年3位入賞だった。


 面白い競技がほかにもあったのに奏のせいでみんな見られなかったじゃん。


 体育祭は3年生が主催する最後の行事だ。

会長はじめ生徒会役員が胴上げされていた。これはハイジャンプ用のマットに放り出されるまでが様式美だそうだ。


そう、明日からは受験勉強に専念することになるんだ。ねえ、奏は大学に行かないの?

「そうだな。今より年収のいい仕事にありつけるんなら行ってもいいかな。」

はいはい、年収1000億円でしたね、あんたは。


「そ、学力も経済力も力には違わんだろ?もし行くとすれば学長の頬を札束でしばけば入れるとこがいいな。私立でも行くかな。さすがにFランとかはいやだけどね。」

あんた、今けっこうな数の受験生を敵に回したけどいいの?


 

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