魔王と戦う【大賢者】の物語。三分間の明暗。

 強力な魔王との戦い。我ながらよくやっている。


 彼我の魔力の総量は絶望的だった。しかし、マーヤの力を使わせなかったことでその量は半分。全員勇者の1パーティの総量を3割超える程度。奏の魔王としての魔法は戦闘よりも統治に向いたものだし、勇者としての魔法も戦闘補助に多くのソースを割いている。


 足りない魔力はリュパートが召喚術によってぼくに補充してくれている。確かに奏の魔法は一発でも喰らえば危険な代物だが、命中率は僕が凌圧倒している。


 この魔法による戦い、周りからはそれほど痛々しくは見えないだろう。それはそのはず、互いに障壁防御魔法を全開で自分にかけながらの戦いなのだ。簡単にいえば「格闘ゲーム」のライフゲージの減らしあいと一緒だ。つまり魔力が先に尽きた方が負けなのだ。


 パーティー戦ならポーションやエリクサーを使えばいいのだが、お互いにそんなものを使わせるつもりもない。



 今戦っている感覚からすれば、奏は魔王討伐した勇者時代から進歩しているとは思えない。ただ、これがぼくにとって完全有利かといえばそうでもない。ぼくが目指すのは完全勝利。つまり魔王から力を奪うことだ。そのためには必殺技フィニッシュブローが必要で、ぼくの場合、その術式の起動に少し時間が必要なのだ。


 そして、勝負はついた。ついに奏が膝をついたのだ。

「奏!」

真綾さんが奏のところにかけつける。彼女は恐怖で震えているのかよろめいていた。さて、あとは必殺技フィニッシュブローを起動する時間を稼ぐだけだ。


 ぼくは奏を見下ろした。

「これで勝負ありだな。しっかり準備する期間を与えておいたのに。相変わらずキミは無策なんだね。少しは進歩したかと思ったが少し拍子抜けしたよ。さて、昔のよしみだ。きみに最後に3分だけやろう。それまでにぼくにきみのすべての力を譲渡すれば別の異世界に一般人の赤ん坊として転生させてやってもいい。さもなくばきみはぼくにすべての力を奪われ、存在そのものが消滅するだろう。降参を認めるかい?」


 そう言いつつぼくは術式の起動を開始する。実のところ今の僕は無防備だ。それこそナイフで急所を一突きでもされたらやばい。奏は真綾さんからスマホを受け取り、電話をかけ始めた。

「お前のその余裕の見せ方、死亡フラグだぞ。」

まだ憎まれ口をたたく余裕があるんだな。


 3分ほど経過し、ぼくの術式は完成した。そう、ぼくは勝利目前まで来たのだ。奏、そろそろ時間だ。きみの返答やいかに?奏は人の悪そうな笑みを浮かべるとぼくにスマホを投げてよこした。

「お前に用事だとよ。」


ぼくが電話口に出るとそれはなんと連邦の国家主席からあった。

「魔王に対する作戦は中止だ。これは命令だ!すぐに中止しろ!」

その声は明らかに震えていた。恐怖におののきながらも精一杯の虚勢を張った声。

なぜですか閣下?ぼくは今まさに勝利しようとしているのですよ。


 しかし、召喚者の意向はある意味絶対だ。ぼくはスマホを奏に軽く投げ返すといったいなにをしたのか尋ねた。しかし、奏はエリクサーをラッパ飲みしてから言った。


「いやだよ。こんなところででイキリ倒すとか恥ずかしすぎる。詳しくは諜報部にでも聞くんだな。もっとも、教えてくれたらの話だがな。俺はいくぜ。パン喰い競争もあるし、真綾もリレーの出番があるんでね。」


 そうか、ぼくは負けたのか。少し自分がおかしかった。おそらく奏はきちんと「準備」していたのだろう。ぼくをねじふせる「戦術」ではなく、召喚者である中南海をねじふせる「戦略」を。それも周到に。

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