大賢者と決戦する【魔王】の物語。

 思えば俺はジャスティンといちばん喧嘩したかもしれない。健介は優しいやつで他人ひとの痛みが解るやつだった。トニーは不干渉主義で俺の方針が気に入らなければ反対もしないが協力もしなかった。だから正面から食ってかかるジャスティンは疎ましくもあったが、代案を理路整然と出してくる彼が頼もしくもあった。


 「え、今日は陸上競技場だよ。」

学校に着くとそこはほぼ無人であった。警備員の格好をした結界師に迎えられる。真綾が抗議の声をあげる。しかし、すでに担任には大幅に遅れるがリレーにはなんとか間に合わす、とだけ伝えてあった。


「それ、最後の種目だぞ。」

担任が呆れたように言うがすでに学園の理事会から通達があったため予感はしていたようだ。


 今日、ジャスティンと決着をつける。


 そういうと真綾はそう、と一言言っただけだった。彼女がマーヤの記憶ヴィジョンをかなり見ているのかもしれない。彼女は肩を震わせて泣いていた。


「なんであんたたちが戦わなければならないの?あんなにおバカで、楽しそうで、必死になって励ましあったり、喧嘩したり、ごはん食べたり、モンスターと戦ったり。おかしいよ!仲直りしなよ。」


 彼女の言うことももっともだ。なあ真綾、今なぜアメリカと日本が同盟国か知ってるか?なんでEUなんて組織があるのか知ってるか?真綾は自分の膝に顔を埋めたまま首を振る。


 戦争したからだ。正々堂々と。もちろん、わだかまりは残っているよ。でも、前へ進むためには戦うしかないんだ。


「どうしてほかの方法じゃだめなの?」

 答えは簡単だ。それがいちばん強制力が強いからだ。俺は魔王になってわかったことがある。それは魔王の側にもそれなりの言い分、つまり正義があるのだ。

エリスはそれをサバンナの動物の水場争いに例えていた。ライオンとゾウ、どちらに悪も正義もない。家族や仲間の生存のために水を確保する。それが限られれば限られるほど争いは酷くなる。そして、彼らも決して話し合うことはないのだ。


 誰もいない校庭に進む。そこにはすでにジャスティンが待ち構えていた。学校の制服に魔法の杖。こう見ると某「ホグ〇ーツ」っぽくていいな。彼は少年アニメの悪役みたいにべらべら語るわけじゃない。


 さあ、始めようか、の「よ」のあたりですぐに魔法攻撃が来た。……しまった。その一撃を避けるため皮膚上になんとか結界を生成するだけで手いっぱいで、能力倍化の「マーヤの血」のアンプルがすべて吹き飛ばされたのだ。


 「お前の切り札をまず消してやったぜ。」

やつの顔にはそう書いてある。出でよ妖精魔導器ベーゼンドルファー。ジャスティンは風魔法による高速移動を巧みに使い、俺の防御結界の内側に魔法をたたきこもうとする。


 俺は土魔法の重力制御を使いながらの高速移動。ま、簡単に言うと方向が自在なフリーフォールなんで慣れるまで気持ち悪いんだよな。っとジャスティンにすでに手の内がバレバレなんで簡単にバックをとられる。まあ航空機戦闘ドッグファイトと違って振り向けばいいだけなんだけどね。


 俺とジャスティンの戦法の違い。それはジャスティンが風魔法を中心に水系と火系を操る「流体系」の攻撃魔法が多いのに対して俺は土魔法を中心に水系と火系を操る「凝集系」が多いんだよね。まあ簡単に言うとビーム兵器対ミサイル兵器みたいな感じ。


 やば、空気の密度が重くなってる。俺の動きを止める気か。そうはさせるか。重力カットでこらえるか。

うーーーん。どうも俺、分が悪いみたい。やばいな。



 

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