宿題から逃げ出した魔王【俺】の物語。自由の代償。

 そういえば、この子いつも探しものしてるなぁ。でも日本の暑さに驚くのは仕方がないよ。とにかく湿度が高いからな。アフリカ人だってアラブ人だって日本は暑いって言うぐらいさ。


 ま、いいや。手伝ってサービスしてあげるよ。

「ありがとうございます。」


 どうも俺、この子といか天然な感じのふわっとした上目使いに弱いみたいだ。いや、天然ならいいけど、意図してたら嫌だな。でも素で妖精が見えるくらいなら天然なんだろう。


 俺が探索魔法で探すとその妖精の反応は公園にある池の方からだった。ステラは俺を肩に乗せ、日傘をかぶると俺の指示した方向に歩き始めた。


 途中、何度かナンパに引っかかる。確かに「チョロそう」な感じに見えるんだろうな。性格が優しいステラは話を一通り聞いてあげるのだが、俺は早いとこクーラーのあるところに行きたい。身体が小さいから余計に暑さが堪えるのだ。ステラ、切り上げたいからなんでもいいから英語でまくしたてろ。俺がささやくと


「緊張してなにを言っていいのかわかんないですぅ。」

というお答え。じゃあ、シェイクスピアの「真夏の夜の夢」の一節でも良いから。そう言うと理解したのか朗々とそれを言い始める。


 英語が理解できないナンパ男たちはやっと退散した。てか、お付きの者たちはどうしたよ?

「んー、なんか熱中症っぽいんですよね。ヒールをかけて日陰で休んでもらってます。」

なんか、この子もこの子の家もどこか抜けている。


 しばらくするとステラの使い魔が池の辺りでぐったりしているのを発見した。茶色の縞が入ったピンク色の猫の姿をしていた。


「エルモ!」

 ああ、確かにセサミっぽいキャラだな。ステラは駆け寄って抱き上げる。猫の妖精はステラの治癒魔法で体調が戻ったのか目をギロリと見開くと俺を威嚇した。


「ダメよエルモ。ま⋯⋯奏さんはあなたを見つけてくれた恩人なんだから。」

ステラが制してもなかなか聞かない。まさに俺に飛びかかろうとしている。ちょっと妖精化してるから危ないんだけど。しばらく首を傾げて対策を考えていたステラが柔らかい笑みを浮かべる。

「ほら、見てエルモ。私は奏さんと仲良しさんなんですょ。」

そう言っていきなり俺の頬にキスをした。


 無論、「魔王」と言っても童貞でも何でもないのだが、思わぬキスに顔に血が上る。猫妖精もようやく納得したみたいで、威嚇をやめた。


「ありがとうございます、奏さん。エルモを探すのを手伝ってくれて⋯⋯。」

そうだな、おかげで汗ぐっしょりですよ。せっかく涼もうと思っていたのに。


「お礼は今のキスです。ファーストキスだったんですよ、私。」

いや、ほっぺにチューはノーカンだし。勝手にカウントすんな!しかも実体ですらねーし。

「では、ご機嫌よう。今度学校でお会いしたらまた敵同士ですね。」


 え、お礼それだけ⋯⋯。もちろん、確認するまで至らず。無邪気に手を振る彼女に作り笑いで手を振り返して別れた。いや、待てよ。彼女、思ったよりちゃっかりというかしっかりしてるなぁ。女の子って怖いわ。


 結局涼む間も無く昼近くになる。しゃーない、帰るか。俺が帰るとランチを食べたいヤワラちゃんは俺に身体を返してくれないばかりか、騙されて宿題をやらされたことにすっかりお冠で、額にマジックで「肉」と書き、口の周りと頬に「変なおじさん」マジック(ペン)メイクをしてみんなに写真を撮らせていた。


なんてことを!?

 おい、お前ら、まさかそれSN Sでばら撒いたりしないだろうな。それは「拡散の種」じゃなくて「拡散のネタ」じゃねーか!


(次回からは納涼祭編です。お屋敷の敷地で商店街との納涼祭を行うことになった奏ですが、彼には祭にとあるトラウマがあって⋯⋯)







 





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