エスケープを図る魔王【俺】の物語。目黒の空へ。



  くそ、まんまとはめられたぜ。さて、どうやって逃げようか。俺の隣の席ではクラスメートのニッシーが悠然と趣味の読書に没頭している。なんだ、読書感想文か?

「いやいや、宿題なんてとっくに終わっとるで。今日はランチとおやつ付きの読書に来ただけや。」

 く⋯⋯。俺もイチャイチャパラダイスの全三巻でも読んでたいわ。


 待てよ、今とてもいいアイデアが浮かんだぞ。考えてみれば俺は妖精魔法使いの勇者様じゃん。よっしゃ、知識の妖精呼んだる、カモン!


  俺の召喚に応えて脳内に現れたのは、小さいドワーフの女の子に羽が生えた容姿の妖精だ。知の妖精「ヤワラ」ちゃんである。ドワーフらしくずんぐりむっくりで筋肉質な身体付きである。だから、そう名付けた。いつもは鑑定系の魔法を行使する時に呼ぶのだが。


「奏、何が知りたい?」

 ヤワラちゃん、パズル好きだよね?この世界の「知的パズル」を解いてみないか?いっぱいあるぞ。


「ふむ、興味深いね。」

よーし、喰いついた。ヤワラちゃんに俺の代わりに宿題をさせるのだ。ヤワラちゃんは俺の説明に嬉々として宿題に取り組み始めた。さて、仕込みは済んだ。「幽体離脱」魔法で抜け出すことにするか。ヤワラちゃん、後はよろしくね。


 俺は自分の身体から抜け出すと自由を求めて屋敷を抜け出した。「妖精化魔法」である。俺の身体は小型化し、頭身は下がり、透明な羽が生える。さあ、いざゆかん、自由の空へ!


 ただ、午前中とは言え夏の陽射しがきつい。身体が小さくなった分、気温の影響をもろに受けるのだ。こりゃアスファルトの無いところにしよう。駒場野こまばの公園でも行くか。


 俺の姿が見える心配はいらない。と言うのも妖精の姿が見えるのは心の本当に美しい人間だけ。つまり、赤ちゃんにしか見えないのだ。すれ違うと赤ちゃんが俺の姿を見て笑う。キャッキャと声を上げる子もいる。俺は駅前の商店街を抜け、大きな公園に入るがそれでも暑い。


 うむ、やっぱり暑いのでメシの時間まで涼しい映画館で映画でも観て帰るとしよう。そう思った。


「あ、まお⋯⋯奏さん?」

突然、呼び止められてびっくりする。声の主は俺の命と魔王の能力をつけ狙う勇者パーティの治療士ヒーラー 少女、ステラ・リュパンだった。


 あなた俺の姿が見えるデスカ?驚いてしどろもどろになる俺。赤ちゃん以外で俺の妖精姿を確認できるは死んだ俺のパートナー、マーヤ以外では初めてだった。


「ぁぁ、私、昔から妖精さんが見えるんですょ。」

そういやこの子、「聖女」だったっけ。バカンスでアメリカに帰ったんじゃなかったの?


「はい、先週までハワイの別荘にいたんですけど、後半はスイスの別荘に行く途中日本に立ち寄ったんです。そぅしたら、使い魔の妖精さんとはぐれてしまって⋯⋯。日本の暑さにびっくりしたみたいなんです。飛び出してどこかに行ってしまったんです。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る