宿題放置を決め込んだ魔王【俺】の物語。許されざる者。

(このエピソードはKAC2020参加作にさらに加筆修正したものです。公開後、7章に加えられます。)


夏休みとは言え、魔王の仕事に終わりはないのだ。


 そう格好つけイキッてはみたものの、やはり憂鬱ではある。

「なに言ってんの?高校ってなきゃ毎日でも仕事でしょうが。」


真綾に指摘される。でも、生活費確保のために始めた防衛事業の所為で異世界では少なかった書類仕事がどーーんと増えてしまったのだ。もっとも、宮廷で貴族たちと付き合うためのお稽古けいこごとが減ったのでそう変わらんかも。


  ということで、夏休みにかかわらず、火曜から木曜までは魔王の仕事があるんです。まあ執事たちが詰めていた仕事にゴーサイン出してハンコつくサインするだけなんだけどね。


 「旦那様。今日は学校関係者との面会予定でございます。」

執事長のセバスチャンが三白眼さんぱくがんの目をこちらに向ける。俺の屋敷は生活空間プライベートの洋館と仕事用ビジネスの和館があって、今日も朝から和館の二階の執務室でつまらない仕事をこなしていた。


 ああ、早く自室に帰ってゲームしてぇ。しかも今日はお客かよ。面会も仕事のうちとはいえ、もともと陰キャの俺は人付き合いは得手ではない。しかも今日は学校関係者って、夏休み終わってからでよくね?俺が二階から降りる。そこは来客者との面会場の大広間なのだ。


「ええ、今日でなければならないのですよ。」

 執事が開けた襖を抜けると、そこはまるで図書室のようになっていた。和室なんだがウッドカーペットが敷かれ、その上にテーブルが並べられ、そのテーブルで一心不乱に勉強する大勢の生徒たち。うちの執事たちがテーブルを周り、勉強を教えている。


  学校関係者って生徒なの?なぜに勉強会?いったいこれはどういうことだ?執事をにらみつけたが彼は視線を逸らそうともせず

「旦那様のお席はこちらでございます。」

と、平然と前を歩く。いやいやご案内すんなよ。どうにもこうにも嫌な予感しかしない。テーブルの空いた上座を勧められる。その席の傍らにはメイド長ハウスキーパー椿姫つばきが教鞭を持って侍していたのだ。


 で、うちの学校の生徒が大挙して俺に面会なわけ?

 黒髪ロングで大きな切れ長の目の魔人がメイド服に鞭を持っている絵面はSMクラブの女王様にしか見えんがな。仮面をつければバッチリやね。

 

 椿姫はしれっと答える。

「はい、本日は旦那様が疎かになさっておられる夏休みの宿題を片付けていただきます。」

おのれ、たばかったな。しかし、まあどうやってこれだけの人数を集めたんだ?


「こちらでございます。」

執事長のセバスチャンが胸ポケから俺のスマホを取り出した。それは真綾に預けていたはずだが?

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