花火大会の【私】と【俺】の物語。野生の魔獣の掟。

(このエピソードはKAC2020参加作を加筆修正しています。今後第7章に移動します。)

 

 食事中、奏がおもむろに席を立つ。どこ行くのよ?あんた。奏はつらっと答える。


「便所。」

 食事時に「便所」とか言うな。小学生男子かアンタは?


 一瞬イラッと来たけど、次から次へと打ち上げられる花火の競演に私はすっかり心を奪われてしまった。さすがにこんな特等席から見られることなんて絶対にないよね。この屋敷にメイドとして放り込まれて幾星霜。ようやく報われる日が来たわ。⋯⋯ささやかだけど。


 それくらい素晴らしい花火だ。素晴らしいディナーの後には、我が屋敷が誇るパティシエールの妖精姉妹ブラウニー&ホイットニーお手製のスイーツを楽しみながらの花火見物。ああ、まさに至福!


 私は外で壮絶な追跡劇が起きているなんて気づきもしないまま花火に没頭していた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔王は全ての魔族、つまり魔人、魔獣、妖精、亜人を統べる存在だ。とはいえ例外はある。それが竜族、つまりドラゴンだ。ドラゴンはまさにプライドの塊。自分たちの優越性を鼻にかけ、他種を見下すことを一切いとわない連中なのだ。


 俺も魔王として領内の竜族と交渉したが、恭順を示したのは下位種族の竜人族だけで、亜種を含めた残りの竜種は全て自主独立を明言したのだ。


 だから、俺の眷属を捕食しようなど絶対に許さない。ドラゴンに独立不羈どくりつふきのプライドがあるように、魔王には魔王のプライドがあるのだ。俺は「シロフクロウ」を確保すると追手のバジリスクと対峙する。


 「ソノモノヲワタセ」

 魔王の俺に対して亜種三下の分際で俺に命令か?さすがの俺もムッとする。竜種に上下関係を教えるには身体に解らせる以外に方法はないのだ。


 その時だった。

「チェイストーーー!」

なぜか薩摩示現流の掛け声とともに魔弾が撃ち込まれる。俺にとっては「馴染み」の攻撃だったため容易に無効化するがバジリスクはかなりのダメージを受けたようだ。


 「奏!オヒサシブリネ!」

トレードマークのテンガロンハットをかぶって登場した少女。俺が異世界にいた時ともにパーティを組んだ仲間。その名はエリス・ワイルド。

 

 彼女はかつて魔王討伐のために俺と共に旅をした仲間パーティメンバーだ。そして、魔王討伐後は同じく仲間だった彼女の恋人、小津健介と共に絶滅危惧種の魔獣を保護する活動を異世界でしていたはずだが?だが、久しぶりの再会も彼女にとってはあまり意味がなかったようだ。


 「ありがとうな、奏。おかげで魔獣『雪梟スノウオウル』の幼生を確保した。奏んとこのゴンドラ船にこいつらが紛れこんだんだよね。」

すまん、もしかして俺のせいか?


 どうもセバスチャンがゴンドラを異世界からこちらに召喚する時に、食うか食われるかの追跡劇デッドヒートを繰り広げていた魔獣たちが巻き込まれたらしいのだ。


 元々エリスはアフリカで野生動物を保護する活動家の両親の元に生まれ、その活動を手伝っていたのだ。


 彼女と共にその幼生を喰らおうとして紛れ込んだドラゴン亜種。食うか食われるかのデッドヒートだったようだ。

 

 バジリスクはいずこかへと逃げ去った。しかし、エリスの魔弾には「病魔魔法リバースヒール」が含まれているはずだ。


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