花火大会に引っ張りだされた魔王【俺】の物語。魔獣がおる?

(このエピソードはKAC2020参加作を加筆修正しています。第7章に移動します。)


 いやひどい目に遭った。ゲームの結果が散々である。それに、花火大会まで行くはめになるとは。それにしても真綾がゴキゲンでなによりだ。よほど行きたかったんだな。


 この屋敷に放り込まれた当初の彼女は俺と自分の間に明らかに一線をひいていたが、最近は少しずつだが自己主張わがままも言う昔の真綾に戻って来たみたいだ。それは嬉しくもある。


「かしこまりました。」

 セバスチャンに指示を与える。「疲れない、人混みに揉まれない、花火が良く見える。」この3つの条件を叶えられるのは隅田川なら無難に屋形船だろうな。たださすがに魔王とはいえ、2、3日前に予約なんかできるわけがない。執事長のお手並み拝見である。


 当日は梅雨明けの素晴らしくも蒸し暑い晴天である。テレビでは底辺DQNどもが場所取りにあけくれる醜くさもしい姿を報道していた。さて、どうなることやら。


 「旦那様、こちらでございます。」

俺と真綾と屋敷に集合してきたクラスメイトたちを待ち構えていたのは屋形船ならぬ「屋形ゴンドラ」だった。白い船体の上に屋根付きの船室、しかもガラス張りで景色もばっちりと見えるタイプだ。懐かしいなぁ。これは魔法で空を浮遊するので、俺も異世界で接待に使っていたものだ。わざわざ異世界から持ってきたんだな。


 「さあ皆様ご搭乗ください。本日は料理長ムッシュ料理ディナーをお楽しみいただきながら花火をご覧いただく予定です。」

 それは凄いな。ゴンドラは浮かび上がると光学迷彩魔法によってその姿を消す。


 ゴンドラが花火会場を目指して進む間、俺たちは東京の夜景を楽しみながら美味しい料理に舌鼓を打つ。うむ、魔王やってて良かった。惜しむらくは「高校生設定」なのでお酒が飲めないくらいか。


 その時だった。俺の視界を何かが横切る。鳥?いや、こんな夕暮れ、コウモリでもなければ飛んでいないだろう。夜目が利くフクロウなんて東京にいるわけがないし。


 すると、その「フクロウ」と目があった。白いフクロウだ。それはゴンドラのふなばたにとまってこちらを見る。違う。これは魔獣だ。魔獣と言っても知能が高くて人語を理解して人間によく懐く、という程度で害はない。そのフクロウに似た魔獣は何かに追われているのか怯えているようだった。


 その時、花火大会が始まり、ドン、という音ともに、俺たちの間近で大輪の花火が開いた。

 フクロウは轟音と閃光に驚いたのか、落ちるようにゴンドラから降下する。


 それを追ってもう一匹の魔獣が降下して行った。フライングバジリスクという小型の魔獣でドラゴンの亜種だ。肉食で獰猛な魔獣だ。このままだとフクロウが食い殺される。俺は席を立ち上がる。真綾が訝しげにどうしたの?と尋ねる。俺は便所、とだけ言ってその後を追うことにした。

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