夏休みを満喫したいメイド【私】の物語。優しい嘘。
(このエピソードは公開後、第7章の夏休み編に移動します。)
音の無い静寂な海の中。少し広い空間だったところへ出る。何かの船室だろうか。永年海水に浸されていた結果、錆びた金属以外のものは何もない。探索魔法がいきついたところにも完全にさびついた金属の塊があった。これ何だろう?
「どうやら手提げ金庫みたいやね。」
マリコさんが答える。当然どこが蓋かさえわからないほど錆びている蓋を奏が魔法で開ける。中を開けるとすでに水に浸かってさびてしまった金属の塊が現れた。
きっと最初は防水処理が施されていたのだろう。周りほど錆びてはいないが、丸い形をした物体としかわからない。
「人の想いが込められし物よ。元の姿へ時を戻せ。」
奏が魔法をかけるとそれは元あった形へと戻っていく。銀製の懐中時計だ。蓋を開けると「祝銀婚式 暮林正三、サダ」と刻まれていた。鎖も元の輝きに戻っている。暮林ってことは、例のお父さんのひいおじいさんのじゃない?
「だろうな。これがひい爺さんの言う『金塊』かもしれんね。」
奏が頷く。おそらく正三さんは船長で、
「このまま返したら嘘くさいもんな。」
マリコさんが魔法をかけるといい感じに経年劣化していく。時を刻んでいた音がやがて止まった。なんかどっちにしても
「いいんだよ。優しい嘘、ってやつだ。」
奏が助け船を出す。
「せや。優しい嘘は良い嘘や。なあ旦那様、ええ仕事したさかい、今日はウチにご褒美ちょうだいな。」
マリコさんがちゃっかりとおねだりをしていた。
「わかったわかった。」
奏がマリコさんの頭を撫でる。
ね、この時計をどうやって返そうか?奏は少し思案するが、いいアイデアが出てこない模様。
「うん、そうだ。セバスチャンに任せよう。」
おい!っと思ったがよく考えてみればそれが自然かも。後でコーデルさんに聞いたところ、その船の操舵士さん、つまりひいお爺さんの部下ね。そのお孫さんの家に持っていき、お孫さんの夢枕に立って船から脱出する時に拾ってそのままになっていたと、時計を渡すよう頼んだそうです。まわりくどい!私がそう言うとコーデルさんは、
「しかたないのです。嘘をホントにするには際限なく嘘を重ねなければなりません。だから愛する方には嘘をつかないことです。」
とウインクした。
さあ、宝探しも満喫したし、みんなのところに戻りますか。
ね、そういえば私たちがいなくなってみんな心配してないかな?
「大丈夫や。ウチが二人の替え玉を用意しとってんから。」
マリコさんが胸を張る。マリコさんは
しかし、オチは壮絶なものになるとはこの時思っても見なかった。
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