夏休みを満喫したいメイド【私】の物語。財宝と沈没船の噂。

 地元の家族連れなのだろうか。私たちの様子をいぶかしそうにうかがっていた。それに気づいたコーデルさんが奏に耳打ちすると奏の指示なのだろう。メイドたちがトロピカルジュースを差し入れに行った。


 天気も良いし、蒸し暑いけど吹き渡る風が気持ちいい。午前中目いっぱい遊ぶとさすがに疲れた。

 

 パラソルに戻るとランチが準備してあった。

「水分補給はこまめにな。熱中症になるぞ。」

椿姫さんに炭酸水を渡される。それを飲むと胃が刺激されてお腹が空いたのがはっきりわかる。


 お昼には料理長ムッシュさんが持たせてくれた特製ランチボックスをいただいた。いつもながら絶品です。みんなも夢中になって食べる。

「やー、真綾のところはいつ来てもご飯最高だよね。私もここでバイトしたいくらいだよ。」

 紗栄子の絶賛に華もうなずく。でもね美味し過ぎて気をつけないと水着が着れない身体になりそうなところが恐ろしいんですけどね。


 「あの、ジュースごちそうさまでした。」

家族連れのお父さんがトレーを持ってこちらにやって来た。

「ところでみなさん、どうやってこの島まで来られたんですか?朝の定期船には乗ってませんでしたよね?」


 そうか、それで不思議そうに見ていたのか。この島は漁場の関係で定期船以外の船では来れないんだそうだ。だからこの大人数が船でなければどうやって来たのだろう、となるよね。そこは奏が澄まして答える。

「『転送魔法ゲートどこで●ドア』ですよ。」

ははは、お父さんが笑う。ね、冗談だと思うでしょ?実は本当なんですよ。


 お父さんによれば今日、この離島に来るのは海水浴客ではなくダイバーたちばかりなんだそうだ。なんでだろう?お父さんが説明してくれた。


 「4年に1度、ここの近くの海に沈んだ船を大掛かりに捜索するんですよ。」

なんでも、第二次大戦中激戦地となった、ここよりさらに南方にある硫黄島へ物資を運搬する軍の輸送船がここで米軍の戦闘機による空襲にあって撃沈されたのだというのだ。


 そして、その沈没船には多額の金塊が積まれていたという伝説がありダイバーたちがそれを目当てに潜るんだそうだ。。しかし、その海域は海流が早く、しかも透明度が低いため視界が悪い。それに普通の沈没船よりも深いところに沈んでいるので暗いんだとか。


 それで水中投光器を集中して投入してみんなでお宝を探す、というイベントが4年に一度行われ、それが今日なんだそうだ。なんか素敵じゃない?紗栄子も華も目を輝かせる。


 「それはちょっと無理がある話ですね。」

奏が切って捨てる。アメリカに陥落させられる危険が高い孤島の基地にわざわざ財宝を持っていくなんてあり得ない話だ、というのだ。ニッシーも同意見のようだ。


「そうですよね。」

 暮林くればやしと名乗ったそのお父さんも苦笑した。彼のひいおじいさんがその船の乗組員だったそうで、4年に1度ここを訪れるのが彼の家族の習慣だそうだ。地元の人ではなく東京にお住まいの方だった。彼は頭をかいた。


「私もデマだとはわかってはいるんですけど、子供の頃から祖父や父に連れられて4年に1度ここに来るのが家族の習慣なんですよ。ひい爺さんが言うにはこの海には確かにお宝が眠っているらしいんです。」


 でも、こんな素敵なビーチで家族で過ごすことがすでに宝物なんだ。

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