体育祭でリレー選手に抜擢されるメイド【私】の物語。

 学校では月末に行われる「体育祭」の準備に追われていた。それをもって現生徒会は引退となる。9月末が受験に支障がないギリギリの時期とみなされているのだ。


 「真綾、帰宅部なのにリレーの選手って凄くない?」

体育祭の華、クラス対抗800mリレー競走は男女4人ずつ選抜される。立候補制ではなく、春の体力測定の成績で決まるのだ。なんとこの私も選ばれてしまったのである。


 ええ、メイド稼業も体力勝負ですからね。それに放課後は剣道部の自主練に参加してますから。奏は当然、選ばれない。というか体力測定を真面目に走ってないだろう。


  実は体育祭と言ってもレクリエーション大会に近く、あまりガチな種目は少ない。女子生徒が男子に比べて圧倒的に数が多いということもあるが、そもそもこの学校はスポーツ強豪校というわけでは無いからだ。


 ただ、割と個人競技マイナースポーツやeスポーツで優秀な生徒はいる。というのは「国際科」という性格上、海外遠征も履修単位にカウントできるためだ。それでマイナーな個人競技の高校チャンピオンがいたりする。学業とスポーツを両立させ易いのだ。


 だから「テキトー」かというとそう言うわけでもない。順位にポイントがつくと同じように、「面白さ」にもポイントがつく競技があったり、ガチの徒競走にオッズがつけられたりと妙なところで凝っているのだ。


 例えば「ムカデ競走」は先頭が「被り物」をするとその面白さが評価点になる、とかパン食い競走のパンに一つだけ激辛クリームが入っていてリアクションせずに走り切ったら加点と言った感じである。


 そう言えば奏は何に出るんだっけ?奏は気怠けだるそうに頬杖ほおづえをつき、窓の外を見ている。

「⋯⋯パン食い競走。ロシアンルーレットなやつな⋯⋯。」

ぷぷぷ、ご愁傷様。でも奏は心ここにあらずって感じ。多分頭の中はジャスティン君との勝負で手一杯なんだろう。


 ねえ。ジャスティン君とどう戦うの?

「魔法勝負になるねぇ。ジャスティンの使う魔法をマーヤの記憶ヴィジョンで見たことないの?」


 あー。いや、いつも味方として安心して見ていた、という記憶しかないや。

「やつの魔法はエグいのよ。敵じゃなくてよかったというやつばっかだね。」

そう言って奏は一度大きく伸びをする。


 まあ二人とも魔法のエグさで言えば似たり寄ったりかな。「ファイアボール」とか火を投げつけるのかと思っていたけど実際には強烈な電磁波を相手のまとう金属に反応させて発火させてるんだよね。


 魔獣みたいに金属を身につけてなければ、たとえ火がつかなくても細胞内の水分が電磁波で加熱して体内から大火傷、というか細胞内の水分が沸騰して体内から爆発するんだよね。


 奏たちが行っていた異世界の魔法は、アニメや映画の異世界もののように少しもファンタジーじゃない。


 魔法だっていきなりぶっ放すなんてことはしないで、詰将棋のように魔物たちの退路を断ちつつ効果的に当てていく。


 魔物の群れが相手なら、結界を張って分断し、魔法で弱体化させ、武器で止めを刺していく。知性のある魔物ならさらに戦い方が変わっていくのだ。その戦法を組んでいたのがジャスティン君の役目だった。

`

 で、勝ち目はあるの?


「うーーん。はっきり言って自信はないな。俺もそれなりに強くはなってるけど、あいつはもっと頑張って来たはずだから。いい言葉で言えば努力家なんだ。」


で、悪い表現では?奏は一つ頭をかく。

「執念深い、と言えばいいかな。」


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