こちらに転生した【王】の物語。リアムの覚醒。

  ほう自分の父が偽物だと気付いたな?その態度はつい先日まで父の影に怯えていた少年とは思えない。リアムは眉一つ動かさない。執事たちが慌てて遺体を運び出す。リアムは魔法で飛び散ったいろいろなモノを浄化すると、それまで父親が使っていたソファに腰掛けた。


「もちろん、この男はある意味ホンモノとも言える。なにしろ私とこれまで10数年の間生活を共にした人間であることに違いはないからな。しかし、ホンモノの父上は別の場所におられる。」

 

 正解だ。探査魔法サーチが及ばぬよう強力な結界と共にいるから今のキミでも真の居場所がどこかは分からんと思うがね。なぜ偽物だと思ったのだ?


「当然のことでしょう。私の正体を知っていてなお共に暮らせるとしたらよほどの実力者かただの愚か者です。」

リアムは天井を見上げて言った。


 「父上、どこで聞いておられるかは存じません。しかし、魔王討伐の特命班タスクチームに関する全ての権限とこの二人の男は私が預かります。私の邪魔をするのであれば遠慮なくどうぞ。どこにおられようが徹底的に探し出し、見つけたならゆっくりと後悔させてさしあげます。お手数ですが、次の『父上役かげの手配だけよろしく。では、お二人とも参るとしようか。」


 陛下はやめてくれ。お前はいったいどこへ向かおうとしているのだ?

「私は魔王を倒す。そして勇者王として世界を統治する。ただそれだけのことだ。それが選ばれし者である私の使命だ。私の意思こそが正義だ。」


 そいつは面白い。俺はだんだん楽しくなってきた。これまでの俺は王として代々受け継いだ民と国と歴史を守ることに汲々きゅうきゅうとしていた。勇者の子孫として積んで来た研鑽けんさんの全てはあの小僧によって全て無にされた。


 今度はこいつの覇業はぎょうに力を貸し、小僧を潰す。やつが積み重ねて来たものを俺がぶっ壊してやるのだ。もう守るべきものを抱えておろおろしなくていい。破壊する側、攻撃する側に回るのはこんなにも楽しいことなのか。


 俺は俺の身ひとつを賭けベットすればいいだけなのだ。これであの小僧、高山奏とやりあえる。


 リアム、来週スイスというところで他の家の当主たちとの会合がある。そこで新たな作戦プランを説明することにしよう。


 翌週、リアムと俺たちはスイスという山間やまあいの国へ行く。その湖畔こはんにある別荘が会場だそうだ。しかし、殺気を感じる。完全に包囲されている。リアムが不適に笑んだ。

「これが例の『対魔王特命班タスクチーム』だ。対魔法防具できっちりと防御している。さすがはトニーの仕事だ。まさか私自ら試運転の相手になろうとはな。⋯⋯力こそ正義【Might is Right】!」


 リアムの身体が魔法具に包まれると一斉に銃弾が浴びせられる。しかし、平然と受け流すと突然電光石火のごとく動き始める。見事なまでの加速性能。響くのは銃声とうめき声。


 戦闘はわずか30分足らず。最後は司令車両に乗り込むと司令官を引き摺り出す。司令官は怯え切っていた。


 兵士を殺してしまったのか?俺の問いにリアムは首を振る。

「いや、二度と銃を握れぬ程度に壊しただけだ。司令官、残念だが狙撃手スナイパーを当てにしない方がいい。」

そう言って尻餅をついて自分を見上げる司令官の腹のあたりにものを落とす。それは狙撃手の二つの眼球と人差し指二本だった。彼は恐怖のあまり声も出せない。


 「私に絶対の忠誠を誓え。逆らえば生きたまま身体をバラバラにするこだってできる。お前の家族も全部だ。そして、誓えば身体を元に戻してやろう。」


 俺は魔王との最初の戦いを思い出していた。俺の親友を、そして妻の弟を無惨にも奪った魔王の特殊魔法。こう易々と使えるものか。


 そこにようやく彼の仲間パーティメンバーが到着したのだ。




 

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