文化祭を意外に楽しんでいる魔王【俺】の物語。挽回への秘策。

「売り上げは好調です。ただ、人気投票の中間発表でパーラー部門10チーム中6位とやや冴えないところです。」

 閉門後のミーティング。クラス委員長の発表でみな複雑な反応を示す。学校のホームページでは生徒会による文化祭特集が組まれている。口コミや人気投票のページもあり、我がクラスの成績は「まずまず」だと思うのだが、どうやらみんなにとってはどうも「そこそこ」だったらしい。


  保護者や教員には大好評だが、生徒からの人気がイマイチなのだ。どうにも「お利口さん」に過ぎるらしい。コメントもスイーツは超美味しいし、落ち着けるから休憩にはうってつけ。メイド服も可愛いがワクワク感はない。変に大人に媚びててつまらない、などなど。


「『文化』の部分は申し分ないけど『祭』の部分に問題ありなんちゃう?」

ニッシーが分析する。

「そう言えば、トニ先はなんて言ってた?」

注目が俺に集まる。俺は一度大きく息をいた。


「けもミミをつけろ」だそうだ。


「はい?」

真顔で聞き返される。本格路線で行くと決めた以上、制服に手を加えずに「祭り」感を出すにはそれがいちばんだろう、ということだ。

「さすがは欧米。ケモナー文化は先進的やな。」

ニッシーが皮肉混じりに呟く。

 まあ、トニーの場合、性に関しては食わず嫌いはしないのであながち間違ってはいない。


 そこで、「ケモミミ」オプションの専門家を呼んである。どうぞ!

「はいはーい!毎度!マリコでーす。」

そう、現れたのはウチの庭師長マイスターマリコ・フォクシー・ナインテイルズである。異世界アストリアでは獣人の妖狐族の首長であり、変化へんげ魔法の達人なのだ。


「はーい、こんなん出ますよ。」

 彼女のトレードマークである赤い帽子を取るとモフモフなケモミミが登場したのだ。

「本⋯⋯物?」

みんながゴクリと唾をのむ。みんなに見つめられて少し恥ずかしかったのか、片耳がぴくりと動いた。

 

「ナデちゃん。まさかこの耳を毎日のようにモフったりしてる⋯⋯のか?」

ロリさんが声を震わせる。してねーし。

「毎日はしてないよね。」

「できれば毎日でもして欲しい。」

真綾、そしてマリコ、その言動は誤解を呼ぶ。たまのご褒美の時にグルーミングしてやるくらいだ。しかも人間の形は解いた状態だし。それより話を戻すぞ。


「では、皆さんの耳を似合う感じのケモミミに変えていきます。効果は今から24時間限定ですからね。」

「ちょっと待ってくれ。異装許可の変更事案だぞ。」

担任のナベ先が口を挟む。心配はごもっともだが問題無い。なぜなら生来の耳が変化するだけだから異装では無いのだ。つまり「四つ耳」ではないのだ。


 マリコが変化へんげ魔法をかけると人の耳が消え、動物のような耳が現れる。皆からおおーっ、という歓声とも感嘆とも取れる声が響く。顔の形に合わせてネコ耳、犬耳のほか、ウサギ、狸、羊、狐、狼と様々だ。髪の毛と同じ毛色なので違和感はまったく無い。ちなみにこの学校は染髪はある程度自由なのでみんな黒髪というわけではない。


 ちなみに真綾はウサギか。小顔だからよく似合うな。

「奏だって狼耳じゃん。結構、サマになってるよ。」

え?俺もかよ。


マリコの説明が続く。

 「尻尾も実装したい方は挙手してね。尻尾通しはスカートのプリーツの中とスラックスの尾骶骨びていこつあたりににファスナーがあるからね。そこから出してくださいね。ちなみにその場合、お尻の辺りも獣毛が生えて来ますが効果は同じ24時間ですから心配しないように。ただ下着は自前でお願いします。」


 これはなかなか良いのではないか?よし、これで明日は挽回するぞ!


しかし、すぐに皆からクレームが来る。

「これだとイヤホン出来ないんだけど⋯⋯。」

それ24時間くらい我慢してくれよ。


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