いつもと毛色が違うメイド【私】の物語。ケモ耳を愛でる日。

 文化祭最終日の日曜日。今日も朝から太陽が照りつけ、残暑が厳しい。私は自前のメイド服で奏と登校する。ちなみに奏は執事服である。タキシードよりよほどこっちの方が似合う庶民フェイスなのである。


 ただ今日、いつもと私が違うのは、頭にうさ耳が生えているところであり、電車通学でないことを心底ホッとしていた。

「ウサミミは良い。」

奏が私の耳の付け根を撫で回す。背筋を悪寒と快感が同時に走る。

「何すんじゃっ!」

私が思わず手を払うと奏は慌てて謝る。

「すまんすまん。つい、グルーミングしモフりそうになってた。」


 そういえば、昨晩マリコさんはディナータイムの後に奏の膝枕&モフモフのご褒美を堪能していた。しかも人の姿のままで。いつもの人懐っこいけどしっかり者のマリコさんとは思えぬ態度だ。奏のやつ、まさかマリコさんまにまで毒牙にかけていたのではあるまいな?


「ばかを言わないでくれ。ペットの動物と一緒だ。俺にケモナー趣味はない。」

ホントかなぁ?でも、マリコさんも奏の嫌いじゃない姿に変化へんげしているのは確実なんだけどね。


 ケモミミという最終兵器を搭載したメイド&執事喫茶(改)はお陰様で大盛況。特に小学生からの支持が圧倒的で、熱い視線を浴び続けていた。主に耳にだけどね。


「真綾。奏くんとお昼休憩に行ってきなよ。」

 猫耳の華と狐耳の紗栄子に送られてちょっと早めの昼休憩に向かう。さすがにこの格好で敵情視察は出来ず、2年J組のパスタ屋に行く。ちなみにJ組は女子生徒のみで構成される女クラである。


「乾麺か⋯⋯。しかもソースも出来合いだな。化学調味料の味しかしねえ。」

 奏の酷評こくひょうに私は苦笑いを浮かべつつも奏の脚を軽く蹴る。思っても口にすんな。確かに毎日お屋敷で出されるムッシュさんの料理のせいでいつしか強制的に口が肥えてしまったせいか、斗缶入りの業務用ソースのパスタがひたすら美味しくない。


「まだ時間があるから他のも見に行くか。」

体育館のステージパフォーマンスはこの時間帯は3Jの演劇だ。これは毎年3J(女クラ)の伝統で宝塚歌劇みたいな劇をやる。見たかったが割と人気なので入れなかった。うーん、残念。


 代わりに3Cのお化け屋敷に入る。看板が掛けてあって「イージーモード:お一人さまで来るヤツ。ノーマルモード:友達同士で来るヤツ。ハードモード:カップルで来るヤツ。」と描いてあって笑えた。私たちはノーマルモードのつもりで入ったんだけど……ハードモードになってた。ぎゃあぎゃあ言ってストレス解消。なぜか奏は涼しい顔だった。怖くなかった?


「うーん、モンスターって臭かったり、血の臭いがきついからな。臭わないとすぐに偽物だな、て思っちゃうわけよ。」

ああ。アンタの異世界生活も割と「ハードモード」だったのね。


 1Bの縁日で駄菓子を買う。幼少期、奏とはよく駄菓子屋さんに行ったっけ。懐かしい。奏が私に昔大好きだった駄菓子を差し出す、

「あー、これ真綾が好きだったよね?」

奏、よく覚えていたね、意外だわ。

「そんなこと無いよ。なにしろ今考えたらさ、真綾と一緒によく遊んでたあの頃が俺の人生で唯一のリア充だった時期なわけだし。」

ちょっと変なこと言わないでよ。思わず笑ってしまう。

「店に戻るか。」


 今だって十分に充実してるじゃん。私は奏の横顔をチラリとみてそう思った。


 私たちが店に戻ると誰かがピアノでクラシックを演奏していた。かなりの腕前だ。後ろ姿は学生のようだ。いったい誰だろう?私が奏を見ると驚きのあまり目を見開いている。どうしたの?私が腕を触ると奏が呟いた。


「⋯⋯ジャスティン。」


 


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