生まれ変わった【勇者】の物語。

 痛い、苦しい。こんな思いをしたことがかつてあっただろうか?


 痛みで気を失うと白い部屋に連れて行かれる。おそらく転生を司るとか言う女神なのだろう。ただ、死んでもいないのでそこからまた引き戻される。


 目を覚ますと寝汗をびっしょりとかいていた。心配そうに僕の顔を見つめるマリーがそこにいた。僕の手を握っている。その手も汗で濡れていた。

「良かった⋯⋯。目を覚まされたのですね。まだ痛いところはないですか?」


 あんなに痛かったのがまるで嘘のようだ。まさかずっと付き添っていてくれたのか?

「いいえ、交代ですわ。」

そう言って枕元のベルを鳴らす。医師が看護婦を伴ってやって来た。マリーは邪魔にならぬよう部屋を出る。ん⋯⋯見てもいないのに様子がわかる。つまり魔法によって自分の望むところを見ることができる、いわゆる魔眼というやつか。


 マリーは部屋を出るとがっくりと床にひざまづき、嗚咽しているようだ。

「良かった⋯⋯。神様⋯⋯ありがとうございます。」

大した女だ。僕に心配させたくなかったのだろう。メイドたちに支えられながら自室へと去って行く。きっと寝ずに看病してくれたのだろう。


 頭がいやにスッキリしている。なんだろう?これまで抱いていた全ての負の感情から解放された気分。怒りも苦しみも悲しみも劣等感もまるでない。まるで嘘のようだ。


 メディカルチェックを終え、僕はベッドを出る。部屋を出ると護衛たちが寄って来る。どちらへ?と尋ねる彼らに父上のところに、と答えると銃を構えた。

「リアム様、それは許可されておりません。」

しかし、僕が銃を見つめただけでその銃身は加熱し、熱さのあまり取り落とす。そして、床に落とした瞬間、火薬が爆ぜる。次は無いぞ、と


 書斎の扉をノックもせずに開けると「父上」とリュパート、そしてもう一人東洋人と思しき男がこちらに目を向ける。リュパートが尋ねる。

「おや坊ちゃん、お目覚めかね?」

おい、これまでの王様口調はどうしたんだよ?リュパートはニヤリと笑った。

「あんな芝居がかった口調は滅多に使わんよ。あの時はキミがずいぶんと尖っていたからね。それでいっぺん死んでみた感想は?」

死んだ?

「ああ。あの薬は『転生薬』さ。キミは寝込んでいた間、一度死んで転生してる。転生によるチートボーナスを得るためにね。」


 そうか、あの白い部屋は夢ではない、というのか。俺はあの魔王に比肩し得る存在になったのだろうか?

「それはまだ難しいかな。あの小僧が吸収した魔王ザムシャハークは我が世界では最強だったからね。ただ、不死身なわけじゃない。それはあの小僧自身が証明している。そして、紹介しよう。魔道士ジャスティン・ラウだ。」

 その男は軽く会釈する。

「ちなみに俺の娘婿だ。だから警戒しなくていい。」

 愚かな。まずあんた自体を信用してないんだがな。

「はは、そいつは手厳しい。」


 では、信用に値するかどうかためしてやる。私は父上の特命班タスクチームをいただくことにしよう。二人とも私の配下に着くがいい。


「勝手なことを言うな!身の程を知れ!」

突然、父上が怒鳴る。ああ、少しも怖くない。下がるがいい、お前はすでに用済みだ。そう言って私が手を差し伸べると父上の頭部は一瞬にして吹き飛んだ。


「キミ、父親になんてことを⋯⋯。」

リュパートが眉をひそめる。その割に微塵みじんも動揺していない。なんだアンタもわかっていたのか。その父上はホンモノじゃない。ただの影武者に過ぎない。

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