魔王化した仲間に会いに来た【大賢者】の物語。

 ぼくはジャスティン・ラウ。異世界に転生した高校生だった。同時期に転生した仲間たちとアストリアの国難を救う旅をすることになったのだ。ところが王宮を訪れたぼくたちは敢えなく門前払いされてしまう。


 その晩、失意と溜息に満たされた宿屋の部屋に現れたのは息を呑むほどの美少女だった。それがリリアーナとの初めての出逢いだ。


 彼女は自分がぼくらの召喚者であり、アストリアの王女であることを告げた。ぼくは心が高鳴るのを感じた。真直ぐな眼をしたこの美しい少女のためならどんな危険にも立ち向かえる、そう思った。


 しかし、彼女の眼差しの先にぼくはいなかった。そこにいたのは高山奏だった。彼女の心は勇者である彼に向けられていたのだ。嫉妬心がぼくの心を焦がす。なぜ彼なのか?


 奏とぼくを比べれば、彼がぼくを上回るのは精霊を操ることくらい。その他の全てはぼくが上回っている、火を見るより明らかだった。


「そりゃそうさ。」

ぼくは自分の気持ちを奏にぶつけた。しかし、帰ってきたのは気の抜けた返事だ。

「俺の持っているチート能力を差っ引けばお前の方が全て上だよ。」

 そんなあっさりと認めるのか?健介もそうだが、日本人はよく卑屈にも見える謙遜をする。リリアは奏のどこが気に入ったのだろうか?


「奏は勇者は自分一人のことではなくて、パーティ全員がそろって一つの勇者だ、って言ってるの。」

リリアは奏のことを話す時、いつも嬉しそうだ。


「だから最近のあなたのことを心配してましたよ。ジャスティンはスタンドプレーが過ぎるって。奏は自分の役割はみんなの見せ場を作ることなのだから、あなたにもチームプレイに徹して欲しいですって。そして⋯⋯これはあなたに言ったら怒るから絶対に言うな、って奏に口止めされてたんだけど教えてあげる。だからあなたの故国おくにはサッカーが弱いんだ、ですって。」


 くそ、最後の一文がいちばん言いたかったことじゃないか。そして、いちばんムカついた。ぼくのむすっとした顔をリリアは嬉しそうに見ている。


 ぼくは奏が嫌いだ。ぼくより優れたところが何一つ無いのに、ぼくの欲しいものをみんな独り占めにしている。それなら、せめてぼくは出世したい。権力が欲しい。この王女の微笑みを独占できるくらいの権力が。


 ぼくはみんなに言っていなかった事がある。ぼくは「事故」で死んだ。書類上、「交通事故」で死んだことになっている。でも実際はそうじゃない。ぼくを轢いたのは自動車じゃない。軍の装甲車だ。


 香港では民主主義を守るための政治闘争が今でも行われている。ぼくもデモに参加していたのだ。自由を求めて学校のキャンパスに立て篭もった。そこに軍が突入し、ぼくらは蹂躙された。力がなければ欲しいモノは手に入らない。それが最低限の自由でさえも。


 だからぼくは王になりたい。そして、それを邪魔するやつは誰であろうと許さない。たとえ、それがかつての戦友ともであろうとも。


 





 

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