穏やかな日常を望む【私】の物語。宴の終わりに。

 キャンプファイアが点けられた。チロチロと燃え始めた火。今夜で地獄のような昼のカリキュラムと楽しかった夜のレクリエーションが終わる。


 最初は場所を提供してくれたり講師役をしてくれた海兵隊や青少年キャンプ施設の皆さんに感謝の言葉と歌を贈呈。


 そのあとはありきたりだがフォークダンス。海兵隊の人も先生たちも参加する。うちの学校はどうしても女子の比率が高いので人数合わせには丁度よかった。


 踊っている間に火はどんどん大きくなっていく。


 女子のみんなは結構気合を入れての浴衣姿。我がメイド隊のおかげで無事着付け完了した。着付けできる先生は2人しかいなくて、海外からのゲストだけで手一杯だったから。しかし、異世界の人たちなのに和服の着付けなんていったいどこで覚えたんだろ。


 なぜか奏はジャージ姿のままでフォークダンスの輪に加わることもなく教師や海兵隊の軍人さんたちと喋っていた。


 キャンプファイアは盛大に燃えている。薪を井桁で組むと火は高く上がるのだが、割と燃え尽きるのも早いらしく、男性教師たちが汗だくになって薪の追加をくべていた。


 フォークダンスが終わると軽食と有志によるパフォーマンスが披露される。どちらかといえば教師たちの隠し芸大会みたいになっていた。うちのクラスの担任教諭渡邉はギターでさ●まさしの曲の弾き語りをやった。うん、これはモテないな。独身男の「関●宣言」はあまりにイタ過ぎる。⋯⋯歌詞はとても面白いんだけどね。


 そして、独身女性教師のリクエストでダンスパーティー再び!が催される。先生たち、イケメンな海兵隊員たちの左薬指をさりげなくチェック!ああ、いつもの先生たちじゃない。まるで雌ライオンのようだ。ちなみにライオンの群れで狩りをするのは雌の仕事ね。


 「真綾。私と踊っていただけませんか?」

奏が私に申し出る。いつの間にか浴衣になってるし!いつ着替えたんだ?まあでも一曲くらいなら踊ってやらんこともないわ。その代わり浴衣でダンスは難しいからね。


 「ステップの小さいやつにしよう。」

奏の提案にうなずく私。身体を寄せる。そう言えばトニー先生やノア君とは踊ったけど奏とは初めてだった。彼の顔を見上げると炎の光に照らされて普段より2割増しくらいに見えんでもないか。下は芝生なので傾斜にさえ気をつければそれほどダンスも難しくもない。


 「次は、『匿名希望の魔王』さんの炎の踊りです。」

アナウンスが響く。すると突然、キャンプファイアが噴き上がり壮大な火柱になって踊るように燃える。まるで炎のイルミネーションのように。


 な⋯⋯なにあれ?思わずダンスをやめて見遣ってしまう。

「火の妖精王の芸だよ。危なくないよ。彼の宴会芸だから。というか俺も手伝うんだけどね。ベーゼンドルファー。」


 奏が炎に合わせて演奏を始める。アメリカのポップスのメドレーだ。ダンスの曲が止まる。みんな踊るのをやめて見入っている。それくらい見事だった。炎が渦巻いたり、フェニックスの形をとったり。やがて妖精王の舞が終わり、火柱が元に戻るとダンスが再開する。


「明日から夏休みだね?」

 奏が嬉しそうにいう。そうね。私は普通に週休2日のメイド業務に戻るだけだけどね。

「これからもよろしくね。俺の護衛ナースメイドさん。」


 はいはい。あんたといれば退屈だけはしないで済みそうね。ただ私は平穏無事がモットーなんですけど。


 私は今、非日常が支配する日常に住んでいる。それも悪くないか。私は奏の顔に踊る陰影を見つめながらそう思っていた。


《次回から文化祭編がスタートします。》









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