島国に来た【聖女】の物語。敵と味方。

 この人踊れるのかなぁ。最初は半信半疑だった。でもすぐに驚かされる。魔王さんは日本人なのにダンスが上手いんだ。これは取ってつけたような技術ではなくかなり経験を積んでいる。


そして彼のリードは分かりやすくて優しい。まるでパパと踊っているみたいだ。魔王さんははにかみながら言う。

「踊りにくくはない?俺も異世界では宮廷勤めの経験があるからダンスはそれなりにね。明日はうちのとるんだよね。⋯⋯お手柔らかに頼むよ。」

 そういえば、魔王さんはなぜ戦うんですか?思わず聞いてしまった。魔王さんは困ったように笑う。

「それは君たちの方から挑んで来たからだよ。俺は平和主義者なんでね。」


 でもパパは魔王はアメリカにとって危険な存在だ、と言っていた。だから私たちの未来のために倒さなければならないと。


「そうだね。アメリカが作る兵器や、アメリカの最強の軍隊を全て投入しても俺にかすり傷一つつけられないことを知っているからね。魔法は核兵器の世界にとって代わるゲームチェンジャーなんだ。

それよりステラは俺が悪い人に見える?」


 パパは言っていた。人間は悪い人か良い人かではなく敵か味方かで分けなさい、って。そしてその基準は損得で決まるって。だから、魔王さんがどんな人かは関係なくアメリカとリュパン家にとっては敵なんだ、って。


「なるほど。一理あるね。」

魔王さんは苦笑した。でもそれは状況によっては変わると思うの。戦っているときは敵同士だけど、こうして踊っている時は仲良しさんになるのかなぁ?


「じゃあ戦ってない時は、俺のこと奏、って呼んで欲しいな。」

 魔王さん⋯⋯じゃなかった奏さんはいたずらっ子みたいに笑った。


やがて、パーティーが幕を閉じる。


 夜明け前に私たちは起きると身支度を整える。出発前にトニー先生がアドバイスをくれた。

「君たちは十分に強い。ただそれは戦闘力においてだ。だから相手の魔法攻撃に十分注意するんだ。それさえ頭に入れておけば互角以上に戦えるだろう。」


リアムは言った。

「我々は新装備を手にし、そして厳しい訓練を積んできた。まず、魔王の眷属どもを蹴散らし、魔王に挑むことにしよう。我々には揺るぎない正義があるのだ。」


 富士山フジヤマを背に魔王の眷属、四天王が立っていた。右端は魔人コーデルグラキウス。細身の剣を持つ。その隣はローズレッドのビキニアーマーに身を固めた魔女ドロシー。魔法杖を持つ。さらに大剣を構えた竜人アレイスター。そして、やはり黒いビキニアーマーをまとった椿姫。その手には長刀があった。


 見るからに強そう。私はヒップホルスターから魔銃を抜いた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る