平穏な日常を願う【私】の物語。「イケメンは別腹」

 プロムが始まった。プロムというのは英語のプロムナードの略でダンスパーティーのことだ。アメリカでは卒業シーズンにやるらしい。結構みんな気合いが入っていた。


 何しろリアム君やノア君、そしてトニー先生。イケメンたちと踊れるかもしれないのだ。最初のパートナーは自分で選べるが、いない人は海兵隊のイケメンな軍人さんがエスコートしてくれるというサービスっぷりである。


  ドレスコードは制服で良いはずだが、通販で買っちゃいました、って人も結構いた。奏がキャバ嬢みたいって言っていたが、逆にプロムドレスにあちらが似ているという方が正確かも。


 もちろん、私も奏も制服である。あんたタキシード持ってるんだから着てもよかったのに。奏をからかったら、あれは仕事着だからそれ以外は着ないの、真綾のメイド服と一緒だよって言われてしまった。マーヤのドレスもあるけど着てみるって逆にからかわれた。ふん、どうせお胸の部分がスッカスカですよ。


 「お待たせ。」

紗栄子と華が来る。二人とも海兵隊の軍人さんにエスコートしてもらっていた。さすがスポーツで鍛えているだけあって二人とも親に買わせたドレスが似合うなかなかのスタイルである。


 音楽が始まった。一応夕食も兼ねているので軽食も用意されているが、おにぎりは無いよねえ。


 やっぱり生徒たちのダンスは上手い下手がはっきりしてしまっている。私は週に一度あるお屋敷のメイド研修にはダンスの練習もあり、そこで椿姫さんにみっちりと仕込まれているのでこの中ではマシな方だろう。


 実は奏は意外にダンスが上手い。異世界では必須のスキルだから、と冗談交じりに言うが、実際には音楽をやっているのでリズム感は確かなのだ。


 主催者のリアム君たちはきっちりとタキシードとイブニングドレスである。やっぱり様になっている。リアムくんが白のタキシード。ノア君が黒。ステラちゃんが白のドレスでクロエさんが黒。私たちはリアム君の執事ウインチェスターさんに案内されてリアムくんの近くまで行った。


 ノア君とクロエさんはみんなと踊るために出払っていて、そこにはリアムくんとステラちゃんだけがいた。

「真綾ちゃん。僕と1曲いかがですか?」

トニー先生が手を差し出す。うわ、サマになる!

「行っておいで。」

奏に促され、私はトニー先生の手を取った。


「あの⋯⋯魔王さん。この前のお礼に私と踊ってください。」

ステラちゃんが奏に手を差し出す。

「ああ。この間のゴブリン騒動のね。」

奏も納得したらしく彼女の手を取った。


「少し、表情が柔らかくなって来たね。」

ワルツを踊りながらトニー先生が私に囁く。え、そうですかね?あまり自覚無いですけど。

「マーヤの記憶はどこまで見た?」

え⋯⋯耳元はやめて。ぞくっとする。え⋯⋯四天王戦あたりですかね。椿姫さんやコーデルさんたちがまだ魔族だった時の戦いの記憶あたりが出てくる。ただ、順不同なので時系列はよくわからない。


「そうか。また、聞かせてもらうよ。」

そういうと先生は私を引きよせる。胸板厚!私はワルツの拍子が跳びそうなほど心拍が高まっていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る