平和な日常を望む【私】の物語。痛すぎる魔法とイタ過ぎる男子。

 濱田君ハマちゃん西脇君ニッシーが連れてこられた。魔王の交友関係まで知っているということはスパイはゲストの中だけではなく校内の生徒の中にもいることになるんじゃないだろうか。


 「ナデちゃん!やばいよ、なんでこうなったんだ?」

慌てふためくハマちゃんに比べニッシーは冷静だった。

「後で埋め合わせはしてくれよな。」

「ああ。」

 ニッシーは奏が自称「民間軍事会社」経営者なのだからこういうこともあるかもと思っていたそうだ。

 

「で、ご用件は?」

傾斜上、一段高いところから見下ろす敵の司令官に奏は不敵な表情を崩さない。私は知っている。奏もマーヤさんも何度もこんな修羅場を潜ってきたことを。

私も奏も車から下された時に後ろ手に手錠をかけられている。


「貴様が盗んだ原潜を返してもらおう。そして、身代金として100億円ほど頂こう。」

100億ぅ?ま、考えてみれば奏の年収の1割か。

「後半の金の話は党の意向ではないだろう?あんた、軍区はどこだい?」

「瀋陽だ。」

「なるほどな。」

後で聞いた話では今の党総書記と瀋陽の軍閥の仲が悪いんだそうだ。それで党の雑用ついでにお小遣いを稼ごうと欲を張ったらしい。


「でもどちらにせよすぐここで手渡せるものじゃないな。あんた、最初から俺を殺すつもりだろ?」

ひええええ、殺されちゃうの?私。

「だったどうする?」


「つまらないから戻るわ。」

奏の手から手錠が落ちる。そして魔法を詠唱した。

痛天覚つうてんかく!」

奏の魔法が発動した瞬間、兵士たちの手から武器が転がり落ちる。そして苦しみながらのたうちまわる。絶叫が星空に木霊する。やがて全員が気絶したのか辺りが静かになった。


「中国人って本当に『アイヤー』って言うんだな。」

それが事が終わって奏が最初に呟いた言葉だ。まず私の手錠を外し、つかつかと二人の友人に近付くと二人の手錠も簡単に外す。


「すごい魔法だな。」

ニッシーが感心したように言うと奏が照れる。

「いや、解錠魔法はパーメンの中で一番下手だったんだ。宝箱開けんのが特に下手でね。」


「そっちじゃなくて兵隊を一発で全員熨斗のした方の魔法だよ。」

「ああ⋯⋯。あれは人間の痛覚を100倍から1万倍まで増強しただけだよ。今は服を着ても痛いし風が吹いても痛いし、水も痛くて飲めないだろうな。人間の身体は痛みに耐えられなくなったら気絶シャットダウンするようにできてんの。まあ効果は12時間なんでこのまま置いて行こう。」

またエグいの来た。一応投光器の電源だけは落としておいた。エコって大事だもんね。


「悪いな。俺のせいで怖い目に遭わせたみたいで。なんかして欲しいことあるか?」

 二人の返事は即答で「エッチなメイドさん」を一晩でもいいから貸して欲しいだった。これだから隠キャは⋯⋯。奏専属の淫魔さんたちの配下の淫魔に食わせる予定らしい。

「ちなみに好みの女性のタイプは?」

という奏の問いに

「俺、紀尾井坂きおいざか38の佐藤神楽ちゃん!」

「俺は聖坂ひじりざか44の正倉院綾香で。」

ほぼ食い気味に答えていた。即答かよ!これだから隠キャ童貞は⋯⋯。

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