穏やかな日常が欲しい【私】の物語。「この魔法はもっと早くかけて欲しかった。

 富士山がでかい。関東から見る富士とは比べるべくもない。まさに「銭湯の壁画レベル」だ。夏なので当然雪は無いのだがゲストたちは少し残念そうだ。


 バスはクラスごとではなく、選択するコースごとに分かれる。そして、奏と私は「ミッション・リーダーシップ講座」の受講がリアム君たちによって指定されていたのだ。いわゆる海兵隊などの特殊部隊のリーダーを養成するかなり難しそうな感じ。


 受講者も20名だけ。それもゲストのうち3人。リアムくんたち4人、あとは国際科の留学生や帰国子女の人ばかりで普通科からは私と奏だけなのだ。理由はすぐに分かった。授業が英語だけで行われるからだ。Oh my god ⋯⋯。どう考えても私、ちんぷんかんぷんなんですけど。


 「真綾、心配ないよ。」

奏が私の両耳を掌で挟む。ちょっ⋯⋯と。思わず目を瞑りそうになる。するといきなり英語が理解できる。これって魔法?


 「言語理解魔法だよ。異世界に行く人間の初期装備デフォルト魔法だね。これがないと魔族の連中が日本語なんて喋れるはずないでしょ?」

うわ、これまじやばい。わかる。読める。これさえ有れば英語のテストなんて余裕すぎる。奏の英語だけの成績が良い理由は実はこれだったのかぁ。


「な、だから学校なんて行くだけ無駄なんだよ。」

そうじゃねぇだろ。だいたい読めても理解出来ない言葉も多い。それを学ぶのはためになることだ。私はドヤ顔の奏の頭に軽くチョップした。


 講座を聞き、教本を読んでレポートを出す。昼間の講座は辛いが、夜は国際交流のレクリエーションプログラムもあってとても楽しい。


 初日の晩は場所を提供してくれた海兵隊の皆さんによるバンド演奏だった。とても上手で盛り上がった。驚いたのは奏がピアノで飛び入りで演奏に参加したことだった。もちろん校内で奏よりピアノが上手な生徒は何人かいるけど、その中で英語でコミュニケーションが取れるのが奏だけだった。まあ魔法でズルしてるだけなんだけど。ただ帰国子女も多いからそれだけではカッコいいと思われないけどね。


 2日目の晩は生徒会と実行委員会主催の肝試し大会だった。二人一組で所定のコースを回ってボールを集めるのだ。流石に軍事基地内ではできないので基地に隣接する国立の青少年キャンプ施設で行うことになっていた。ちなみに今回、生徒のほとんどはこの施設で宿泊している。


 ねえ奏、たまには別行動にしない?私が軽く言うと奏は首を横に振った。

「今夜は、今夜だけは俺のそばにいて欲しい。」

⋯⋯え?それってどういう意味?

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