美と女性をこよなく愛する【巨匠】の記憶。戦友の都落ちと闇落ち。
俺がこの世界で死んだのは自業自得だった。楽器職人の修行が上手くいかなくて、女の家を転々として生きていた。ジゴロと言えば聞こえが良いがただの「ヒモ」だったのだ。
俺の転生先の異世界の国アストリアはイタリアに良く似ていた。細長くて海があってシーフードが美味い。パーティの仲間もいいやつばかりだった。
俺たちのパーティに決定的な変化をもたらしたもの、それは奏が魔王の力を引継いでしまったことだった。それはマーヤを救うために仕方のないことではあった。しかし、これで奏と俺たちの間に圧倒的な力の差が生まれてしまったのだ。
魔王討伐から帰って7日目、俺とジャスティンは二人だけで王に呼ばれた。国王リュパート8世は名君であったが、奏に対する疑心暗鬼にとらわれてしまっていたのだ。
それは奏を暗殺せよ、という
それは名案だった。まず宮廷や王都から奏を遠ざけることができる。国内の魔物を魔王のもとに集約させれば国内の治安も上がる。そして国の
ただ、そんな条件を奏が受け入れるだろうか?俺なら即、お断りする案件だ。しかしジャスティンは言った。
「断ればそれをもって謀反の意図ありとして討伐なされば良いでしょう。逆賊ともなれば勇者の資格は消え、リリアーナ王女殿下に新たな勇者を召喚する権利が発生いたしましょう。」
さすがは大賢者という知略である。
ただ、意外なことに奏は嬉々としてその提案を承諾し、さっさと王都を引き払ってしまったのだ。今でもアストリアの南にある魔王国の王都オデッサには奏の城がある。
それでも王の疑心暗鬼は止まらない。今度は隣国に奏が寝返ったらどうしよう、そればかり心配する様になったのだ。
そして王は王女リリアーナをジャスティンに妻として与えることを決めた。俺はさっさと断ったんだけどね。奏に恋していた王女は怒り、苦しみ、俺たちの秘中の秘だったマーヤの「反魔族の血」の話を王に打ち明けてしまったのだ。
心配する俺にジャスティンは大丈夫だと安請け合いする。
「あれは魔族や魔力を使役できる人間が敵だからこそのブースターだからな。一般人相手では意味がないはずだから。」
しかし、その見立ては甘かった。疑いに取り憑かれた人間にそんな理性的な思考ができるはずもなかったのだ。
いや違う。ジャスティンはあえて見て見ぬふりをしたのではないだろうか?
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