島国に来た【勇者】の物語。英雄は色を好む。

 トニー・ジラルディーノ。長めの金髪に短く整えられた顎髭あごひげ。イタリア出身の異世界人という。清潔感に溢れた感じは女性の好感度も高かろう。


 我々は自分たちが受け継いで来た防具や武具、魔道具を彼に見せた。彼は一瞥いちべつすると言い捨てた。

「こいつは術式が古すぎるな。ただの我楽多ジャンクだ。」

バカにするな。これは偉大なる当家の先祖から受け継いだものだ。俺たちが激昂げきこうするとやつは苦笑混じりに言った。


「確かにガラクタは言い過ぎだった。それは謝る。しかし戦争にノスタルジーを持ち込むことがいかに危険かは想像はつくだろ?アメリカを世界の覇者たらしめているのは最新の兵器を圧倒的な数量保有しているからだ。そう骨董品アンティークでは魔王になんか勝てっこないさ。」


 それは⋯⋯。我々は黙ってしまった。彼の意図を理解したからだ。彼はノアの魔法の杖の様子をチェックする。

「起動は遅いし、威力も弱いな。まあ、これまであんたらの才能と努力でこれをカバーしてたわけだ。奏を相手にこれまでよくやってた来れたな。大したもんだ。」


 私はどうすれば魔王高山奏に勝てるのかを尋ねた。彼の弱点はなにか?

「そいつはタダでは教えられないな。だいたい、今のお前たち4人がかりでもまだ俺にすら敵わない。えて言うが、まだあいつに手加減してもらっているんだよ。強くなりたきゃ俺にも出すべき代価モノを出せ。でないと俺は奏の肩を持つことになるぞ。」


 そうなのだ。我々は最高の錬成術士を召喚したのだ。転生を司る女神によれば彼の作る武具は他の異世界の神たちですら競って手に入れたがる代物だという。彼のイニシャル「G」が入った魔道具は至るところの異世界で高値で取引されているというのだ。


 彼の要求通り我々は六本木に彼のマンションを用意した。そして彼を美術講師としてロックフォード国際高校へと迎えた。


 「やつのこの世界での経歴が分かった。」

 ノアが持って来た資料によるとトニーはイタリアの楽器職人の街クレモナで見習工をやっていた。将来を嘱望されるほどの腕前の持ち主だったが、いかんせん女癖が悪い。そしてそれがたたって1年前に殺害されていたのだ。イタリアの反社会組織の幹部の妻を寝とったかららしい。しかも、本気になった彼女に対して遊びだったと言ってのけ、それを恨まれてのことだった。


 らしいと言えばらしいな。それを彼にぶつけると彼は煙草をくゆらせながら笑った。


「ああ、そんなこともあったなぁ。」

あんたを殺したやつに復讐したいとは思わないのか?そう尋ねると少し不思議そうな表情を浮かべる。

「なぜ?⋯⋯もちろん、俺の前に昔のノリでのこのこ現れたら思い知らせてやるだろうがね。自分から探しにいくほどじゃない。そんな暇があったらいい女を探しにいくね。その方がよほど建設的だ。悪い。アフター5は忙しいんだ。続きはまた明日にしてくれ。」

 どうにも東京のナイトライフがお気に召したらしい。


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